『みかづき』森絵都の原作を思い切って改変 ダメで愛らしい高橋一生×情熱的な永作博美が中心に

 静かだが迫力に満ちた、妖刀にも似た雰囲気を持つ原作の千明は、陽気でバイタリティあふれる情熱的な女性像に作り変えられた。永作には明らかに後者のほうが似合っている。原作では、千明は音もなく吾郎に忍び寄って絡め取っていくのだが、ドラマではあぜ道を全力疾走し、肩で息をしながらやってくる。手土産にもってきたゴーフル(クリームを挟んだ薄い焼き菓子)を自らばりばりと食べて自分のペースに持っていく千明の強引さと官能性を表す印象的なシーンも、二人で笑いながら食べる微笑ましいシーンとなった。もちろん、彼女自身が持つ“魔性”もそこかしこに匂わせている。その最たるものが、押し倒すようなキスシーンだろう。

 そしてなんといっても高橋一生。子どもたちに優しく、教えることに天才的な才能を持っているのだが、何かツボに入ると急に一人で笑い出し、年上の女性の誘惑に弱いのだが、教育に関しては信念を持つ男ーーという原作の大橋吾郎像は彼にぴったりなのだが、ドラマの吾郎はさらに味付けを加えてきた。

 胸元の大きく開いた薄手の白いシャツを着て、子どもたちと愉快そうに戯れ、両手でゴーフルを掴んでパリパリと食べ、窓辺でたばこをふかし、さりげなく夜道で懐中電灯を渡す優しさもありながら、「女性と二人っきりでいて、何もする気にならなかったのは初めて」と楽しそうに失礼なことを言う。母親たちと寝ていたことが露見して校長に叱責されると「あ~」と何も言えなくなり、ものすごくきれいな角度でお詫びをして、子どもの前で「は、は、は、破廉恥だから! ごめんよ!」と叫んで走り出す。ダメで愛らしい高橋の煮こごりのような描写が続くのだ。

 要所に教育についての千明の信念を垣間見せながら、ルックはコミカルで愛らしく。それが『みかづき』というドラマのようだ。森絵都の小説が持っているリーダビリティを、えいやっと「見やすさ」という言葉に翻訳したようでもある。それがうまくいったのは、繰り返しになるが、高橋一生と永作博美の魅力を中心に据えたからだと思う。

 高橋らが子どもたちと一緒に歌い踊るエンディングの「みかづきダンス」は、同じNHKの昭和初期を舞台にした傑作ドラマ『悦ちゃん~昭和駄目パパ物語~』の「パパママソング」を彷彿とさせる牧歌的で心温まるものだった。ドラマは小気味よく時代をスキップしていく。第2話以降は、「家族の物語。ラブストーリーだ」と言って照れ笑いを浮かべた吾郎の言葉がさらに掘り下げられていくだろう。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
土曜ドラマ『みかづき』
NHK総合にて2019年1月26日より毎週(土)21時〜放送(連続5回)
脚本:水橋文美江
音楽:佐藤直紀
出演:高橋一生、永作博美、工藤阿須加、大政絢、壇蜜、黒川芽以、風吹ジュン ほか
演出:片岡敬司(NHKエンタープライズ)ほか
制作統括:陸田元一(NHKエンタープライズ)、黒沢淳(テレパック)、高橋練(NHK)

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