『ボヘミアン・ラプソディ』だけじゃない! 公開相次ぐ音楽映画をまとめて紹介
この秋から年明けにかけて、音楽映画が次々と公開される。しかも、ジャンルはロック、ソウル、クラシック、ワールド・ミュージックと幅広く、ちょっとしたフェスのような賑やかさだ。そんななかから、話題作をいくつか紹介しよう。
『ボヘミアン・ラプソディ』
まずは、イギリスを代表するロック・バンド、クイーンの歴史をドラマ化して、公開されるや大ヒットを記録した『ボヘミアン・ラプソディ』(公開中)。自分の生い立ちや容姿にコンプレックスを抱いていた青年、フレディ・マーキュリーは、ブライアン・メイとロジャー・テイラーのバンドに加入。バンド名を「クイーン」にした彼らは、念願のレーベル契約を交わしてデビューし、次々とヒットを生み出して、世界的な人気バンドになっていく。映画では「キラー・クイーン」「ボヘミアン・ラプソディ」など名曲のレコーディング風景も再現されていて、彼らの独創的なサウンドの秘密を垣間見ることができるのも楽しい。
バンドが成功へと一直線に突き進む前半に対して、後半はフレディのドラマに焦点が絞られる。バイセクシュアルに目覚めたフレディは妻のメアリーと離別。寂しさをまぎらわせるためにパーティ三昧の日々を送るなかでメンバーと対立して、ドラッグに溺れていく。そして、エイズの発病。どん底のなかで彼を救ったのは、音楽と仲間たちだった。映画ではフレディの死まで描かず、クイーンの最後の輝き、1985年のライヴ・エイドのステージがクライマックスになっていて、21分に渡り白熱のパフォーマンスを再現。フレディを演じたラミ・マレックの成り切りぶりも圧巻だ。監督はフレディ同様、バイセクシュアルであることをカミングアウトしたブライアン・シンガー(『X-MEN』『ワルキューレ』)。それだけに、社会や家庭に馴染めない〈ボヘミアン(異邦人)〉としてのフレディの苦悩に焦点を当てながら、クイーンの曲を全編に散りばめて、ミュージカルのように音楽をたっぷりと聞かせる物語になっている。
『ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』
ロック界のスーパースターに続いては、ソウル・ミュージックの女神、ホイットニー・ヒューストンのドキュメンタリー『ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』(2019年1月4日公開)。監督はドキュメンタリーも劇映画もこなす、ケヴィン・マクドナルド(『ボブ・マーリー/ルーツ・オブ・レジェンド』『ラストキング・オブ・スコットランド』)。家族や関係者の証言に、ホイットニー財団から託された豊富な映像を巧みに織り交ぜながら、フレディに負けない、波乱に満ちたホイットニーの人生が記録されている。
シンガーのシシー・ヒューストンの娘として生まれ、ディオンヌ・ワーウィックやディーディー・ワーウィックを従姉妹に持つなど、子どもの頃から音楽の世界に触れていたホイットニーは、母親の厳しい英才教育を受けて歌手としての才能を開花。その美貌も手伝って、デビューした途端に新時代のポップスターとして人気を得る。それは母親が果たせなかった夢でもあった。シングル7曲が連続チャート1位という驚異的な記録を生み出し、さらに初出演映画『ボディガード』で彼女の人気は頂点に。しかし、ラッパーのボビー・ブラウンと結婚したあたりから雲行きが怪しくなる。
ボビーの浮気、父親の横領疑惑、ドラッグ問題など、ホイットニーを追いつめていく様々なスキャンダル。なかでも、本作で初めて明らかにされて物議を醸しているのが子ども時代の性的虐待だ。しかも、相手が親戚のディーディー・ワーウィックという衝撃の事実。そのほか、母娘でライバルのことをこきおろす映像や、失敗に終わった復活ツアーの無惨なステージなどキワどい映像も登場する。その一方で、テレビ初出演時の映像や伝説となったスーパーボウルでの国歌斉唱など、素晴らしいパフォーマンスも紹介。ホイットニーの光と影をしっかり描くことで、無垢な天才の素顔に迫っている。