『ヴェノム』はなぜ批評家と観客の間で評価の違いが生じたのか? 『ブラックパンサー』と比較検証

『ヴェノム』なぜ批評家と観客で評価が違う?

 マーベル・コミックのスーパーヒーロー「スパイダーマン」の宿敵の一人である、生物の身体に乗り移るスーパーヴィラン(超人的悪役)「ヴェノム」。そのヴェノムと、乗り移られた男を主人公に、次々に降りかかる災難や壮絶なバトルを描く実写映画が、今回紹介する映画『ヴェノム』だ。本作をめぐり、じつは興味深い現象が起きている。

 まず公開前のアメリカでは、批評家の反応が良くなかった。「最高の俳優トム・ハーディの無駄遣い」、「ひどい脚本」などなど、批評を集めたレビューサイト「ロッテントマト」によると、7割以上の批評家によるネガティブな、ときに過激なまでに強い物言いの意見が多く見られたのだ。これは制作費100億円級の大作としては無視できないダメージになるはずだった。しかし蓋を開けてみれば、公開後の『ヴェノム』は多くの観客を集め大ヒット。いきなり90億円ほどを稼ぎ出し、週末興行成績においてアメリカの歴代10月公開作のなかで成績トップという新記録を樹立。日本でも初週ナンバーワンヒット作品となり、観客の評判は上々だ。

 なぜ批評家と観客の間でここまで評価の違いが生まれたのだろうか。ここではその原因を探りつつ、映画『ヴェノム』の描いたものを考えていきたい。

 観客が本作に魅了された要因の一つは、「ヴェノム」の凄まじいビジュアルにある。映画『スパイダーマン3』に登場した後、何度もヴェノムを主役としたスピンオフ映画の企画が検討されてきた。このキャラクターは、アメリカンコミックのヒーロー作品におけるヴィランのなかでも、とくに人気が高く、実写映画版が待ち望まれていたのだ。

 おびただしい数の真っ黒な蛭(ヒル)が集まったようなおぞましい姿と、そんな生物に身体を蝕(むしば)まれることを代償に超人的な能力を得ようとする人間が組み合わさった存在は、それが醜く背徳的だからこそ、逆説的に妖しげな美しさを持つ。本作のCGアニメーションによる、ぬめぬめとした質感とスピーディーな形態変化、とくにクライマックスで見せた、水しぶきのように細かく散乱する精緻なヴェノムの肉体表現については、批評家からもほとんど文句が出てこないほど、観客の期待に応えていたように思える。

 支持されるもう一つの要因は、とくに近年、重厚感のあるシリアスな役を演じることが多かったトム・ハーディが、意外なことにコメディ・タッチで、ヴェノムに身体を乗り移られる主人公エディ・ブロックを演じていたことだ。彼は『ブロンソン』(2008年)で演じたような凶悪さと、『レジェンド 狂気の美学』(2015年)で演じた一人二役のスキルによって、ほぼコントのような、エディとヴェノム両方のかけ合いを一人で行っている。その、一歩間違えればくだらないだけの描写になりかねないシーンが、コメディ映画『ゾンビランド』(2009年)のルーベン・フライシャー監督による軽快な演出だからこそ、そして演じるのがトム・ハーディだからこそ、大画面で成立していると感じられる。

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