北野映画の常連役者たち――『龍三と七人の子分たち』を含む全作品から出演歴を検証

北野武映画の常連役者たちを考察

 今年4月に公開された映画『龍三と七人の子分たち』は、北野武監督作品としては17作目にあたる。引退した元ヤクザの「ジジイたち」一龍会と、オレオレ詐欺や悪徳訪問販売などの悪さをしている「ガキたち」京浜連合の対立を主軸とした、コメディタッチのエンタメ作である。公開から21日目で観客動員数が100万人を突破、興行収入は北野映画史上歴代2位を記録(1位は2003年公開の『座頭市』)というヒット作となった。

 そんな本作のBlu-ray/DVDがリリースされたこのタイミングで、本記事では少々風変わりな考察を試みる。「この映画に出ていた俳優が、別の映画ではこんな役をしていた」という事実を見つけるのは映画の楽しみのひとつといえるが、それをもはや一種のブランドとして確立して久しい「北野映画」という枠組みにおいてやってしまおうという試みである。つまり、本作『龍三〜』の出演俳優全員の中で、過去の北野映画に出演したことのある俳優はどれだけいるのか、そして何という映画で何の役をしていたのかを総チェックしてみようというわけだ。

 本作の出演者人数を映画最後のスタッフロールで数えてみると、全部で156人だった(氏名が表記されている人のみ。「ラッキーリバー」「舞夢プロ」などの会社/団体名のみの表示は7つ、そして「ボランティアエキストラの皆様」という表示も一番最後にあったが、これらに含まれているであろう氏名不詳の出演者に関しては今回の検証の対象外とする)。人数の結論だけ先に述べると、156人の中で北野映画に2作以上出演しているのは23人だった。以下、簡単にカテゴリ分けをしつつ紹介していこう。

メインキャスト

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 本作のタイトルにもなっている「龍三と七人の子分たち」が指し示す8人中、北野映画初出演は藤竜也(龍三親分)、近藤正臣(若頭のマサ)、品川徹(早撃ちのマック)、小野寺昭(神風のヤス)の4人。つまり、もう4人は過去に何らかの北野映画に出演したことがある俳優となる。

 バラエティ番組で存在感を放ち、本作でもはばかりのモキチ役でコミカルかつ悲哀のある演技を見せた中尾彬は、前作『アウトレイジ ビヨンド』(2013)では物語序盤で山王会の乗っ取りを企んだ幹部ヤクザ・富田役で出演。さらに『アキレスと亀』(2008)でも主人公・倉持真知寿の父親の利助役と、近年の計3作に登場しており北野映画の新たな常連俳優になりつつある。

 五寸釘のヒデ役の伊藤幸純も、中尾と同じく過去2作に出演経験あり。『キッズ・リターン』(1996)では主人公のマサルとシンジが通う高校の数学教師役。授業をサボったマサルとシンジが屋上から卑猥な人形を吊り下げて遊ぶのを怒っている先生、と言えば思い浮かぶ人も多いだろうか。『みんな〜やってるか!』(1995)はシークエンス・出演者ともに他の作品よりも多めの、一種のコント集合体映画(そして怪作であると同時に唯一無二の傑作)なのだが、その中の銀行強盗のシークエンスにて銀行員役で登場している。セリフはないが、銀行強盗シークエンスが始まる最初のカット、行員たちが集まって強盗に怯えるシーンの右側に伊藤が立っているのが確認できる。背広につけたバッジから役名が「小山」だとわかる。

 残りの2名は、どちらも『龍三〜』以外は1作に出演。ステッキのイチゾウ役の樋浦勉は、『座頭市』では柄本明扮する呑み屋の主人にこき使われている老人役。カミソリのタカ役の吉澤健は、北野映画第1作『その男、凶暴につき』(1989)ではヤクザ組織のナンバー2・新開役だった。物語終盤で「どいつもこいつも気違いだ」というセリフを吐いてから、四半世紀後に北野映画最新作への登場となった。

北野映画の常連俳優

 26年・17作品の歴史を持つ北野映画だが、そこには複数の作品に出演する、いわゆる常連的な俳優の姿が見受けられる。よく名前が挙げられるのが寺島進、大杉漣、白竜、そして芦川誠である。前3人は本作『龍三〜』には未出演だが、芦川は焼き鳥屋店主役でその姿が確認できる。8人の中から一龍会の親分を決めようと過去の罪状を自慢気に語りだし、それをカウントする店主、円卓に乗って回転するカメラが8人を捉えるのが印象的なシーンだ。

 芦川は『その男〜』の北野武扮する主人公・我妻刑事の部下である気の弱そうな菊地刑事を皮切りに、『3-4X10月』(1990)では草野球チームのメンバー・朗、『みんな〜』ではやはり北野扮する透明人間推進協会博士の助手と、初期から多数の北野映画に参加。『TAKESHIS'』(2005)以降は少しご無沙汰だったが『龍三〜』で久々に登場、計9作の出演回数を誇る。

 浄水器はサービスと言いつつ羽毛布団を売りつけようとする京浜連合・北条役の矢島健一は、過去2作に出演、それぞれ印象深い役柄だった。北野映画の最高傑作として挙げる人も多い第4作『ソナチネ』(1993)では、北野扮する主人公・村川と対立するヤクザの高橋役。エレベーターに乗り合わせて、村川が「高橋」と呼びかけた刹那に始まる銃撃戦シーンは、『ソナチネ』のみならず北野映画全体においても屈指の名場面のひとつだろう。ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、北野映画の世界的評価を決定づけた名作『HANA-BI』(1998)では、主人公・西とその妻を気づかう優しげな担当医役だった。

 龍三の息子であるサラリーマン・龍平を演じた勝村政信は『ソナチネ』以来久々の出演。沖縄のトッポい青年ヤクザを演じ、物語終盤まで長くスクリーンに登場していた。北野とはバラエティ番組『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』のレギュラー出演での縁がきっかけでの映画出演と思われるが、そういった番組共演や、タレント事務所「オフィス北野」所属などの縁からの起用というケースは、北野映画においては数多く見受けられる。

 本作『龍三〜』での北野扮する村上刑事の直近の部下の刑事(役名なし)を演じたのは國本鍾建。オフィス北野所属の俳優である國本は、『BROTHER』(2001)以降ほぼすべての作品に何らかの役で出演している常連で、回数は計7作にのぼる。『TAKESHIS'』ではヤクザの坊っちゃん御曹司に仕えて、映画オーディションでも坊っちゃんのとなりでセリフを読み上げるという過保護な側近ヤクザを演じていたが、そんなコワモテの役だった國本が本作では刑事役というのが面白い。

 清水富美加扮するキャバクラ嬢と恋仲で、一龍会と京浜連合の板挟みとなるロン毛の石垣を演じた石塚康介もオフィス北野所属。役者志望で北野に弟子入りし、付き人として運転手をやっているそうだ。本作以外に『アウトレイジ ビヨンド』にも出演している。

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