のんは“最高”を更新し続けている 『あまちゃん』から『キャスター』に至るまでの進化

のんは“最高”を更新し続けている

〈Give me my name back 生まれ変わるように 今を生きてる〉
〈ふざけんな 嘘をつくな 真実に興味はないくせに ふざけんな どうにでもなれ あの日わたしはこの手で火をつけた〉

 のんの直近アルバム『PURSUE』の1曲目「Beautiful Stars」とラスト曲「荒野に立つ」には、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年度前期)で一躍脚光を浴びるも、2016年に起こった所属事務所との契約問題以降、本名である「能年玲奈」を使用できなくなり、「のん」として活動をはじめてからの彼女の心の軌跡が刻まれているように思える。

 俳優のみならずアーティスト、ファッションモデル、音楽レーベル代表、映画監督など、幅広いジャンルで活躍してきたのん。いわゆる“芸能界の掟”により、ほとんど仕事がなかった時期を経て、現在彼女が放つ唯一無二の輝きは、たゆまぬ自己研鑽の賜物だろう。

 そんなのんが、4月27日に放送される日曜劇場『キャスター』(TBS系)の第3話に出演する。彼女が演じるのは、大学の研究室の若手研究員・篠宮楓。万能細胞を発見するが、SNSで研究の不正疑惑がささやかれはじめるという役どころ。のんが民放地上波のドラマに出演するのは実に11年ぶりとなる。

『キャスター』第3話©TBS

 またその前日の4月26日には、村上春樹の短編小説集をドラマ化したオムニバスドラマ『地震のあとで』(NHK総合)の第4話「続・かえるくん、東京を救う」に出演(声のみ)。還暦過ぎの警備員・片桐(佐藤浩市)にある重要な気づきを与える「かえるくん」の声を担う。

 さらに、4月23日から配信が開始したNetflix映画『新幹線大爆破』にも出演。爆弾を仕掛けられた東北新幹線「はやぶさ60号」の運転士・松本を演じている。

 この3作品におけるのんの俳優としての成長には目を見張るものがある。何か、演技がネクストステージに達したような感覚をおぼえるのだ。いったい彼女に何があったのだろうか。

 時を戻して、事務所独立前後からの、のんの「自己研鑽」の足跡を辿ってみよう。

 2016年公開の映画『この世界の片隅に』の主役・北條すずの声を演じてからはしばらくは、ナレーションや朗読劇など「声」の仕事が続く。個展を開いたりアートブックを上梓したりと「あーちすと」としての活動にも力を入れていた。この頃、映像作品に姿としての出演はほぼなかったものの、演技の強化レッスンは絶え間なく続けていた。『この世界の片隅に』出演時からハリウッド式の演技メソッドを取り入れ、役の「人生の目的」「障害」「Pain(痛み)」を書き出して人物の解釈を深める方法で演技に向き合ったのだという。

 2017年には自らのレーベル「KAIWA(RE)CORD」を発足、音楽活動にも注力していく。高橋幸宏、仲井戸麗市、矢野顕子、堀込泰行ら錚々たるミュージシャンとコラボレーションしながらシングル、アルバムをコンスタントにリリースした。のんのもとにこうした「カッコいい大人たち」が集まるのはきっと、「芸能界」という枠からはみ出して孤軍奮闘する彼女への激励でもあるだろうし、この先のんが日本のエンタメのキーパーソンとなり得る逸材であることを、関わった誰もが感じていたのではないだろうか。

 2018年、LINE NEWSオリジナルドラマ『ミライさん』で主演。フューチャーホームドラマでニートの主人公・ミライを演じた。2019年にはYouTubeオリジナル映画『おちをつけなんせ』で監督・脚本・主演をつとめる。製作にあたっては是枝裕和監督から映像表現の指導を受け、『この世界の片隅に』でのんに惚れ込んで彼女を起用した片淵須直監督から脚本の手ほどきを受けたという。地上波のテレビドラマが斜陽に向かいはじめ、新たなプラットフォームや媒体の映像作品が台頭する流れと、のんの活動領域の広がりが符合していることに驚く。

『私をくいとめて』©2020『私をくいとめて』製作委員会

 綿矢りさによる同名小説を映画化、大九明子がメガホンを取り2020年に公開された映画『私をくいとめて』で主演。他者とのコミュニケーションが苦手で脳内の相談役「A」(声:中村倫也)と会話してばかりの日々を送るみつ子を演じた。このあたりから、これまでの「飄々」「不思議ちゃん」に類別されるキャラクターに、「静かなる狂気」という新たな得意分野が加わったように思う。

 2021年には「のんザウルス in Zepp Tokyo 1st Last LIVE」を行い、バンドとして念願のZepp Tokyoでのライブを実現させた。2022年には二度目の監督・脚本・主演映画『Ribbon』が公開。内定取り消しを食らった美大生・いつかの日常を描いた。コロナ禍の閉塞感が続くなか、「早くここから飛び出して自由になりたい」といういつかに内在するエネルギーが、のん自身の姿に重なる。

『さかなのこ』©︎2022「さかなのこ」製作委員会

 さかなクンの自叙伝を原作に2022年に公開された映画『さかなのこ』では、主人公・ミー坊を好演。今のところ『あまちゃん』に次ぐのんの代表作と言っていい。「男か女かは、どっちでもいい」という文言から始まるこの作品は、のんの主演以外考えられない。彼女の演技の新たな引き出しとして「性別・属性を超えた存在」も加わった。

 また同年には『天間荘の三姉妹』も公開。三姉妹の末っ子・たまえを演じた。天空と地上とを繋ぎ、魂が行き場所を決めるまで過ごす宿「天間荘」に臨死状態で連れられてきて、初めて姉たちや母と対面し、中居として働くたまえ。舞台設定はエキセントリックだが、たまえのキャラクターはのんが演じた役のなかで最も「普通」だ。しかし「普通」ほど演じるのが難しい役はない。抑制の効いた芝居。これも新たに見せた一面だった。

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