『ガールズバンドクライ』仁菜は漫画でも熱量全開? コミカライズ作家・伊勢海老ボイルインタビュー

「怒りも喜びも哀しさも全部ぶちこめ。」——2024年に放送され人気を博したTVアニメ『ガールズバンドクライ(以下、ガルクラ)』のコミカライズ版第1巻が、2026年6月29日に発売となった。トゲナシトゲアリ(以下、トゲトゲ)の個性的なメンバーと目まぐるしく動いていくストーリーが織りなすこの物語は、周知のとおりバンド、そして音楽が中心となって展開してゆく。
音声のない漫画という媒体において、こうした「音」はどのように描かれていくだろうか。リアルサウンドブックでは『ガルクラ』第1巻刊行を機に、コミカライズ版作者・伊勢海老ボイル氏に『ガルクラ』の魅力や本人の音楽との関わり、そしてメディアミックスの難しさなどについて話を聞いた。さまざまな視点から、コミカライズ版『ガルクラ』ならではの魅力とその表現の裏側に迫る。
キャラクターの持つ二面性の共存

——はじめに、原作アニメ『ガルクラ』を見た時の感想を教えてください。
伊勢海老ボイル:まず話が面白いというのは前提なのですが、その上で主人公の仁菜(井芹仁菜)含めトゲトゲメンバーのキャラがすごく立っているなと感じました。自分のマインドに刺さるセリフも多くて、見ていて胸が熱くなるような作品でした。
——特に好きなエピソードや印象に残ってるシーンはありますか?
伊勢海老ボイル:ライブシーン全般はもちろん印象に残っているのですが、個人的に一番好きだったのは第10話「ワンダーフォーゲル」です。仁菜のパーソナルな部分から来る父親との確執が、最終的に和解していく物語にはぐっときました。
——仁菜は作品を通して常に目を引くキャラクターでした。漫画版『ガルクラ』では特に、仁菜の高校生らしさというか、かわいげのある部分が表現されているように感じます。
伊勢海老ボイル:ありがとうございます。仁菜の可愛らしさとトガっている部分をどちらも出しながら、それがぶつからずに共存できるように描くことを心がけています。どちらもバランスよく表現するようにしていますね。
——描くのが大変だと感じるキャラクターはいますか?
伊勢海老ボイル:個人的には、すばる(安和すばる)が難しいんです。見た目は黒髪ロングで清楚系という印象を受けますが、性格は結構はつらつとしていますよね。清楚な佇まいと内面のバランスをとる必要があるので、悩みながら描いています。
またすばるに関しては、個人的に手島nariさんのキャラクターデザインとアニメの3Dモデルからそれぞれ少し違う印象を受けるんですね。どちらが良い、という話ではなくてどちらもすごく魅力的なんです。なので、漫画に落とし込んでいくときにどちらをベースにするかというところはかなり悩みました。
——手島nari先生のデザインと3Dモデルは、先生から見てどのようなところが違うように感じますか?
伊勢海老ボイル:見た目の話になってしまいますが、個人的には手島nariさんのデザインでは活発な面が前に出ていて、3Dモデルではより清楚な面が出ているように感じます。
——ちなみに、先生がトゲトゲのなかで一番好きなキャラクター、楽曲を教えてください。
伊勢海老ボイル:難しい質問ですね……。どのキャラクターも甲乙つけがたいのですが、強いて言うならルパさんです。キャラデザ含め、若干達観していて肝が据わっている性格が好きですね。あと背が高いのも好きです(笑)。
曲も全部好きなんですけど、一番を選ぶなら「運命に賭けたい論理」です。裏で鳴っているギターのカッティングがかっこいいです。アニメに出てきた曲だと、「空白とカタルシス」ですね。
「97世代」ど真ん中ーーバンド音楽リスナーとしての素養
——『ガルクラ』のコミカライズの話が来た時はどんな気持ちでしたか?
伊勢海老ボイル:びっくりして椅子から転げ落ちそうになりました。騙されてるんじゃないかと思いながらメールを返信した記憶があります(笑)。連載させていただけて本当にありがたいです。
——いま、実際に連載が始まってみての気持ちも聞かせてください。
伊勢海老ボイル:原作がとても人気で、ファンがたくさんいらっしゃることは知っていたんです。ただ、バンドが題材になるうえにアニメが先行している作品なので、コミカライズが受け入れてもらえるのか不安な部分もありました。なので実際連載が始まって、自分の予想以上の反響があったことがとても嬉しかったです。これからもファンの方はもちろん、アニメを見たことのない方を含めていろんな方に楽しんでいただけるような作品にしていきたいと思っています。
——先生は以前「Seagull Screaming Kiss Her Kiss Herする話!!」というタイトルの読切作品を描いています。タイトルは実在のバンド(Seagull Screaming Kiss Her Kiss Her)が着想元かと推察しますが、もともとバンド音楽が好きだったのでしょうか。
伊勢海老ボイル:そうですね。あの作品はヤンマガの8ページ漫画賞に投稿したものなのですが、ありがたいことに受賞させていただきました。私はNUMBER GIRLやSUPERCAR、くるり、中村一義などいわゆる「97世代」のど真ん中なんですよ。
——先生のリスナーとしての遍歴も、漫画版『ガルクラ』につながっている部分があるように感じます。
伊勢海老ボイル:漫画版『ガルクラ』が連載開始されるときの、弦が3本切れているテレキャスを仁菜が持っているイラストがあるのですが、じつは弦が3本切れているのは、NUMBER GIRLがライブで「透明少女」を演奏しているときに向井秀徳さんのギターの弦が3本切れたというエピソードから来ているんです。ちなみに、マイクも彼が使っているSM57になっています。
——ご自身もバンド活動をしていたのでしょうか?
伊勢海老ボイル:大学では軽音サークルに入っていて、趣味でギターを弾いていたくらいです。あとはDTMで曲を作っていた時期もありましたね。小さいころぼんやりと漫画家に憧れてはいたのですが、作った曲を動画サイトにアップロードするときにイラストが欲しいと思ったのが、再び絵を描き始めた理由でした。そういう活動をしているうちに、自分はイラストを描いているほうが性に合っているなという気がしてきたんです。
漫画という媒体から感じられる「音」
——音楽を題材にする作品では、演奏シーンが重要になるような印象を受けます。先生が演奏シーンを描くにあたって気をつけていることを教えてください。
伊勢海老ボイル:演奏シーンは、読者の方々に音を感じ取ってもらえるような演出や描きかたを心がけています。音声がない漫画という媒体からも音を感じてもらいたいという思いは強くあります。
——原作のある作品を漫画にしていくうえで大変なところはどのようなところでしょうか?
伊勢海老ボイル:『ガルクラ』については原作がアニメということもあって、画としての正解が先に存在しているんですね。それをどう漫画に落とし込んでいくのかという点については、「漫画だから変えよう」というふうには実はあまり思っていないんです。アニメと近い構図を意識しつつ、漫画特有のセリフやフキダシ、あとはコマの間の視線誘導との兼ね合いで漫画として読みやすいように調整していくというイメージで描いています。
なので逆に、難しいところとしては画としての「答え」がすでにあるというところだと感じます。そちらに引っ張られてもいいのか、それとも漫画として読みやすいように調節すべきなのかという取捨選択は、気を遣っていますね。
——ここまで『ガルクラ』を描いてきて、大変だったシーンを教えてください。
伊勢海老ボイル: やはりライブシーンが大変でした。ドラムの動きを漫画ではかっこよく描くのが難しいなと感じたんです。自分がドラムをやったことがないというのもあるんですが、どの瞬間を切り取ると一番かっこよく見えるか見当がつかなかったんですね。なので、持っているライブのDVDやバンドを題材にした作品を見返したりして、試行錯誤を繰り返しています。
——第1巻のなかでお気に入りのシーンはありますか?
伊勢海老ボイル:そもそも、原作の物語がすごく面白いので、漫画ならではのところはすごく細かくなってしまうのですが、第5話「ズッコケ問答①」で仁菜がすばるのスマホを届けに行くシーンで、猫かぶっているすばるを見る仁菜の顔(第5話/13P/6コマ目)がすごくいい塩梅で描けたのが気に入っています。なんとも言えない表情が、我ながらうまく描けたなと思います。
あとは同じ話の終盤で、すばるが「だよね 自分が嫌になる」とつぶやいているコマ(第5話/22P/5コマ目)の横顔もすごく綺麗に描けたので、そこも気に入っているシーンです。
——第1巻の発売にあたって、単行本のおすすめポイントを教えてください。
伊勢海老ボイル:単行本化にあたって、描き下ろしの漫画を少し描かせていただいています。また、ライブシーンに連載版ではなかった「曲の歌詞」が追加されているので、ぜひ単行本でも楽しんでいただけると嬉しいです。
——今後の展開でぜひ見てほしい部分や、力を入れて描きたいシーンはどこでしょうか?
伊勢海老ボイル:やはりライブシーンは、アニメからのファンの皆さんにも納得していただけるようなものにしたいです。他には個人的に好きな第8話「もしも君が泣くならば」や、第10話「ワンダーフォーゲル」のような人間模様に焦点が当たる回は、ぐっとくるような漫画にできればと思います。特に第8話は仁菜と桃香(河原木桃香)の感情がぶつかって物語のターニングポイントにもなる回で、ファンの皆さんも楽しみにされていると思うので、一層力を入れて頑張りたいと思います。
——最後に、ファンの皆さんへメッセージをお願いします。
伊勢海老ボイル:アニメを見た方はご存じのとおり、これから『ガルクラ』は怒涛の展開になっていきます。漫画版『ガルクラ』でも、アニメで感じた熱量に負けないように頑張っていきますので、今後も楽しみにしていただけると嬉しいです。
■作品情報
『ガールズバンドクライ 1』
漫画:伊勢海老ボイル
原作:東映アニメーション
価格:847円(税込)
発売日:2026年6月29日
出版社:マイクロマガジン社(ライドコミックス)
作品ページ:https://comicride.jp/episodes/021fcf4548d99


























