「十二国記」シリーズ最新作『幽冥の岸』が容赦なく突きつける問題ーー尽きることのない人と麒麟のドラマ

「十二国記」尽きることのないドラマ

 小野不由美の『幽冥の岸 十二国記』は、絶大な人気を誇る「十二国記」シリーズの最新刊である。全四巻の大作『白銀の墟 玄の月』に繋がる短編4作が収録されている。なお、本書の刊行と連動してのことであろうが、「芸術新潮」2026年10月号で、「十二国記」シリーズの世界が特集されている。その中にある、小野不由美と漫画家の萩尾望都の対談で作者は、進行役の人から、「今回の新作は『白銀の墟 玄の月』では書き切れずに、こぼれ落ちた部分を短編集として仕上げた、ということでしょうか」と聞かれ、「そうですね。基本的には、私は書くときには、書きたいところや書きやすいところから書いたりして、わりとデタラメに書くので、最終的に1本に繋げる段階で、『あ、これ、いらなかった』というところが結構出てくるんです。で、ちょっともったいないなあ、じゃあ、それをまとめたら短編集になるかも、みたいな、浅はかな考えです(笑)」といっている。浅はかどころか、よくぞ書いてくれたと感謝したくなる逸品揃いだ。

 「十二国記」シリーズは、一見、中華風だが、きわめて独創的な異世界を舞台にしたファンタジーである。人間だけではなく妖魔がいる。麒麟という天意を受けた霊獣が、王を見出し、誓約を交わして玉座に据える。天命のある限り永遠の命を得た王は、麒麟を宰輔として国を治める。他にも大量の設定があるが、ファンには説明不要だろう。麒麟の景麒によって現代の日本から十二国に連れてこられ、苦難の旅の果てに慶国の王になった中嶋陽子を主人公にした『月の影 影の海』を始め、重厚な人間ドラマを堪能できるのである。

 それと同時に麒麟についても描かれていく。特に戴国の麒麟である泰麒は、シリーズの中でも重要な役割を背負っている。なにしろ最初は現代ホラーだと思われていて、後に「十二国記」シリーズのEpisode 0と銘打たれた『魔性の子』から登場しているのだ。しかもシリーズに登場する麒麟の中では、一番酷い目に遭っているといっていい。そこから麒麟の存在の意味や、麒麟と王の関係などが、浮かび上がってくるのである。

 おっと、この調子で書いていると、話があっちこっちに飛んで行ってしまう。本書の内容に筆を進めよう。冒頭の「戦城南」は、『白銀の墟 玄の月』の、少し後の時代の話。戴国の山の連なる奥地にある崎高という街に、ふたりの男がやってくる。神農の短章と、道士の去思だ。ふたりの目的は、鄷都の遺体であった。行方の分からなくなった泰王・驍宗を捜す、泰麒や李斎たちと行動を共にしていたが、戦に巻き込まれて死んだ男である。崎高で、戦で死んだ者たちの遺体を集め、弔っている男がいると聞いたふたりは、山の中に入っていく。

 そこでふたりは墓土(はかもり)の男と出会い、鄷都の遺品を手に入れる。さらに、墓土をしている理由も聞くのだが、これがハードな〝罪と罰〟の物語になっている。『白銀の墟 玄の月』の、あのエピソードの背後には、こんなにもやりきれない、もうひとつのストーリーがあったのか。墓土の意外な正体も絡め、簡単に割り切ることのできない善悪の問題を、作者は読者に突きつけるのだ。相変わらずシリーズの世界は容赦なく、またもや粛然たる気持ちになってしまった。それだけに、仄かな許しが感じられるラストに、ほっとさせられたのである。

 続く「異邦の客」は、『白銀の墟 玄の月』で、偽王の阿選に仕えていた女官吏の琅燦の少女時代が扱われている。十二国の中央にある黄海で暮らす朱氏の琅燦は、とにかく好奇心旺盛。ある日、軍を辞めて黄海にやって来た驍宗と巌趙と出会った琅燦は、さまざまなことを教わる。さらに騎獣を巡る騒動にもかかわり、自分のことを考えるようになる。癖のある女官吏だった琅燦の原点を知ることができて満足。一方で驍宗が黄海にいた時代のことが明らかになり、いろいろなことが腑に落ちた。

 「夢の結び」は、『白銀の墟 玄の月』で語られていない、驍宗側の人々の動きを、白玉という戸籍を持たない浮民の少女の視点で綴っている。まだ幼いが聡明な白玉が、それゆえに歓楽の街での恵まれた生活を捨て、厳しい現実に飛び込んでいく。人生とは自らの意志で道を選ぶことだと、あらためて実感した。

 そしてラストの「幽冥の岸」は、泰麒の物語である。やむを得ぬ状況とはいえ、兵を殺傷した泰麒。その代償で病みついた泰麒は、李斎と耶利によって、生まれ故郷の蓬莱山に連れていかれる。本来、人を害することができない麒麟が、代償があるとはいえ、なぜ殺傷することができたのか。それを可能にしている天意は、どこにあるのか。いままでにも語られることのあった疑問が、あらためて問われる。だから最後に泰麒が到達した境地に、心が震えるのだ。

 長く続いてきた戴国の物語は、本書の刊行によって、本当に一段落を迎えた。しかし十二国の歴史は続き、人と麒麟のドラマは尽きることがないだろう。だから早くも、シリーズの今後を期待せずにはいられないのだ。

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