『九条の大罪』なぜ原作から“改変”された? 救いのあるヒューマンドラマになったワケ

4月2日にNetflixで全10話の配信がスタートした『九条の大罪』が注目を集めている。本作は『闇金ウシジマくん』(小学館)の作者として知られる真鍋昌平が週刊ビッグコミックスピリッツで2020年から連載している人気漫画をドラマ化したリーガル・サスペンスだ。
※以下、ネタバレあり。
九条間人(柳楽優弥)は、ヤクザや反グレから持ち込まれたヤバい案件ばかりを引き受けるため、周囲から悪徳弁護士だと軽蔑されていた。
ある日、九条は建設会社社長の息子・森田竜司(佐久本宝)が起こしたひき逃げ事件の弁護を担当することになる。九条は森田にスマートフォンをなくしたことにして、財布に入っているレシートを捨てるように指示、そして、アルコールを抜くためにサウナに行くように言った後、森田を警察に出頭させる。その後、森田は執行猶予の判決を受ける。逆に森田がひき逃げした親子は父親が命を落とし、息子は片足を切断。しかも母親が弁護士を雇わなかったため、保険会社に平場での解決基準で言いくるめられて、基準よりも低い額の保険金しか支払われなかった。その話を聞いた九条は「無知というのは本当に罪ですね」と言う。
この第1話「片足の値段」は、漫画では執行猶予を言い渡された瞬間の被害者側の母親の凄まじい形相が印象に残る後味の悪いエピソードとなっている。
ドラマでも第1話で放送され、原作通り進むのだが、細かい改変が施されており、作品から受ける印象は若干異なる。一番の変化は、犯罪被害者・加害者の支援を行うソーシャルワーカーの薬師前仁美(池田エライザ)が、被害者の母親の前に表れて「息子さんのためにも裁判をやり直しましょう」と助言することだ。
母親は人生に絶望して自暴自棄になっているが、片足を失った子どもが必死でリハビリしている姿を見て、考えを改める姿が感動的に描かれる。その後、薬師前の助言は、実は九条から頼まれて伝えたものだと判明する。つまり、ドラマ版は少しだけ救いのあるヒューマンドラマとなっていた。
真鍋昌平の漫画は、写真を加工した風景描写を多用しており、人物の体形や顔も写実的に書かれているのだが、引きの画と極端なアップが多いこともあってか、感情移入を拒むような乾いた手触りとなっている。
真鍋が描くヤクザや反グレの男たちは、行動が短絡的ですぐに暴力を振るうのだが、何より何を考えているかわからないところが恐ろしい。そして、彼らを弁護する九条の内面も簡単には読み解けない。その結果、独自の不穏さが作品の中に宿る。
画像も物語もリアル志向の『九条の大罪』は、実写作品と相性が良いように思える。実際、今回のドラマの荒涼とした街並みのロケーションは素晴らしく、衰退する日本の今を風景によって描き出している。そして、柳楽優弥を筆頭とする俳優陣の演技も素晴らしく、さすがNetflixのドラマだと思ったが、一方で原作漫画とは何かが違うとも感じた。
その違いがはっきり表れているのが、第5話「家族の距離2」の、悪徳介護施設に寄付された父親の遺産返還の訴えを九条に依頼した家守華恵(渡辺真紀子)が「お父様は言葉にはならなくても、あなたに心から感謝していたと思います」と九条に言われて号泣する場面。
漫画では、見開きで九条と対峙する華恵の泣き顔が描かれた後、膝をついて悲しむ英恵の姿を引きの画で捉えているのだが、そこに英恵が心情を吐露する長台詞が噴き出し3つで表現されているのだが、やはり対象に対して距離を取っているように感じる。
だがドラマ版では、英恵の顔にカメラが寄り、彼女が心情を吐露する場面がちゃんと描かれている。だからこそ父親のことを思って泣く彼女の思いがストレートに伝わってくる。
監督には連続ドラマ『カルテット』(TBS系)の土井裕泰、プロデューサーは連続ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の那須田淳が担当している。つまり、TBSのドラマチームによって作られたNetflix作品だ。また、脚本を担当する根本ノンジは、原作モノのドラマを得意としており、原作となる漫画や小説のエッセンスを抽出した上で、ドラマならではの物語に落とし込む手腕が高く評価されている。今回の『九条の大罪』もエピソードの取捨選択と脚色が実に見事で、ヒューマンドラマに寄せたことで乾いた暴力の向こう側にある物語の本質に肉薄している。
九条が弁護士として向き合うのは、反社、反グレ、無知ゆえに生活が破綻した弱者といった、あまり助けたいとは思えない問題を抱えた人々ばかりだ。「思想信条がないのが弁護士の仕事です」と語るため、弁護士としての職業倫理が九条を動かしているのかもしれないが、一方で彼は娘を持つ父親でもある。
九条の他にも、劇中には娘を殺された刑事や、息子が危機に晒されたヤクザといった様々な父親が劇中に登場するのだが、ドラマ終盤になると彼らが一つの事件に関わるようになる。
漫画の節々で描かれていた情けない父親たちの姿が、ドラマ版『九条の大罪』では、より際立っている。その意味で、本作は苦悩する父親たちの物語だと言え、どんなクズの悪人でも弁護する九条の弁護士としての態度は「父として」の振る舞いだと考えることも可能だ。
残念ながら盛り上がりの絶頂でドラマは終わってしまったが、いつかSeason2が作られた際には、この父たちの物語に決着をつけてほしい。
























