『カイジ 24億脱出編』なぜ“ギャンブル勝負なし”の逃亡劇に? 読者を「ざわざわ…」させる、現金24億円の物理的な質量

『カイジ』なぜ“ギャンブル勝負なし”に?

 藤原竜也主演の実写映画シリーズ第4弾『カイジ 人生リベンジゲーム』が2027年1月29日に公開されることが発表された。

 前作『カイジ ファイナルゲーム』から7年ぶりとなる新作映画の決定を受け、福本伸行が手がける原作漫画「カイジ」シリーズにおいて2023年6月以降、連載休止となっている『賭博堕天録カイジ 24億脱出編』にも大きな関心が集まっている。

 『24億脱出編』は、カイジが和也との「ワン・ポーカー」勝負で手に入れた現金24億円を持って帝愛グループの追っ手から逃亡を図るという内容だ。これまでのシリーズの代名詞であった「限定ジャンケン」や「地下チンチロリン」「沼」のような、独自のルールに基づくギャンブル勝負は一切行われない。それにもかかわらず、本作が読者を「ざわざわ…」させる理由は、福本作品の根底にある心理戦のノウハウが、日常的な「逃亡劇」という形式へそのままスライドされている点にある。

 本作における最大の障壁は、24億円という現金の物理的な質量だ。1万円札で24万枚、重量にして約240キロにおよぶ大金は、移動させるだけでも困難を極める。カイジと、行動を共にする外国人労働者のチャン、マリオの3人は、まずこの巨額の現金をいかにして運び、どこに隠すかという生々しい問題に直面。銀行口座への安易な預金は帝愛の監視網にかかるリスクがあるため、彼らは複数の車に現金を分散して積み込み、一時的な住居として一軒家を借りるなど、泥臭い手段を選択していく。ギャンブルという非日常の空間から、不動産の契約や車の購入といった日常的な手続きへと舞台が移ったことで、読者にとってはより身近な感覚でのハラハラ感が生まれているのだ。

 また、帝愛グループの遠藤金融の社長・遠藤勇次による執拗な包囲網も、本作の緊張感を高める要素だ。遠藤は金融業者としての経験とネットワークを駆使し、カイジたちの動向を追い詰めていく。ここでの攻防は、トランプやサイコロの出目を読み合うのではない。相手が次にどの場所へ移動するか、どのタイミングで買い出しに出るかといった、行動パターンの裏をかき合う頭脳戦となる。マリオがデパートで帝愛の追っ手に捕捉されそうになった局面などでは、限られた時間と空間の中でいかにして視線を逸らし、脱出路を確保するかという、ギャンブル勝負時と同等の緻密な心理ロジックが組み立てられていた。

 また、ギャンブルがないからこそ、キャラクターたちの人間模様や結束力がより鮮明に描かれている点も特徴である。カイジ、チャン、マリオの3人は、多国籍でありながらも「帝愛から生き延びる」という目的のもとで強固な信頼関係を構築。大金を手にしたことで生じる猜疑心や、取り分の分配を巡るトラブルといった、この手の物語にありがちな内紛がほとんど描かれない。互いを助け合い、ピンチの際には身を挺して仲間を救おうとする友情は、これまでの孤独な戦いが多かったカイジの物語において新鮮な味わいを与えている。日常生活を共にしながら、ささやかな幸せに喜びを感じる彼らの姿があるからこそ、それが帝愛によって破滅させられるかもしれないという危機感がより強調される仕組みだ。

 映画をきっかけに再び原作を読み返す読者にとっても、この一風変わった逃亡劇は新鮮な面白さとして映るはず。それだけに、映画の公開のみならず、連載の早期再開が待たれてならない。

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