山下智久、ワイン街道で見せた“神々しい横顔”ーードラマ『神の雫/Drops of God』の演技を読む

山下智久が見せた、“神々しい横顔”

エグゼクティブ・プロデューサー山下智久が掲げるテーマ性

 全世界で1500万部以上売り上げる、亜樹直のワイン漫画『神の雫』が初めてドラマ化されたのは2009年(日本テレビ系)だった。世界的に著名なワイン評論家の息子で、たぐいまれな感性を持つ主人公・神咲雫を亀梨和也が演じた。亀梨とは、2005年放送ドラマ『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)で名ユニット「修二と彰」を組んだ山下智久へバトンが繋がるように、再ドラマ化作『神の雫/Drops of God』(Apple TV +)が2023年に世界配信された。

 世界配信というからには当然、格段にスケールアップしている。日仏米共同製作ドラマとして、ワイン評論家の父はさらに著名なフランス人に、主人公もフランス人の女性キャラクター、カミーユ・レジェ(フルール・ジェフリカ)に大胆に置き換えた。そして原作ともに主人公のライバルとなる気鋭の評論家・遠峰一青をもう一人の主人公に据え、山下智久が演じる最高の布陣を組んだ。2026年は待望のシーズン2が配信され、カミーユと一青が激闘のワイン対決を繰り広げた前作から、兄(一青)と妹(カミーユ)が互いを認め合い、共闘する物語へとテーマ性が深まる。

 シーズン2からエグゼクティブ・プロデューサーの一人になった山下は、本作公式ホームページ上のコメントで作品テーマを「人対人の関係性」だと説明している。前作終盤にかけて、対決中のカミーユと一青が実は兄妹であることを明かし、それを先に知った兄が妹を次第に慈しむようになった。決戦地パリで二人が無言で乗るエレベーターの場面(第7話)など、人物と人物が向き合っていないシチュエーションでさえ、山下は実に自然な視線移動を駆使して慈愛の心模様を表現していた。そうした「人対人の関係性」を画面上で具体的に浮かび上がらせる山下が(主演俳優としてもエグゼクティブ・プロデューサーとしても)一青の心の奥にフォーカスするシーズン2への自然な流れを作ったことがわかる。

発祥地ジョージアに辿り着く経路

 シーズン2の一青は、暗闇に強い恐怖感を抱いている。第1話冒頭は彼がダイビングをしている海中。深海の底を見てパニックになり、溺れかける。一青は幼少の頃にも溺れた記憶がある。おぼろげな遠い過去のトラウマが深く関係しているらしい。夜、就寝前に灯りを消すが、すぐに点灯してしまう。なかなか克服できるものではない。それでも克服しようともがく中で、幻のワインを求めて辿り着いたジョージアの、ある場所がきっかけを与えてくれる。

 その場所は、幻のワインを醸造する一家の邸宅に隣接している。第4話から5話にかけて、タフな女将に連れられ、一青は真っ暗な洞窟内で一夜を過ごす。女将はきっとギブアップするだろうと思っていたが、一青は見事に暗闇を克服する。第1話冒頭から繰り返し描いた暗闇という主題を、洞窟内で完結させるのは、さすがジョージアらしいなと思った。ジョージアの古都ツカルトゥボにはプロメテウスの洞窟と呼ばれる、カラフルな鍾乳洞があり、有名な観光地になっている。プロメテウスはギリシア神話に登場する火を司る神だが、ジョージアがあるコーカサス地方にはゆかりの神話がある。

 主神ゼウスの怒りを買ってしまったプロメテウスは、コーカサスの岩山に何年も鎖で繋がれるのだ(詳しくは高津春繁の名著『ギリシア神話』を参照してほしい)。プロメテウスの洞窟近くにあるクヴァムリ山がその岩山だと考えられている。プロメテウスを救い出したのはゼウスの息子ヘラクレスだったが、洞窟で暗闇の試練に耐えた一青を再び外の世界へ導いたのは、岩間から差し込む朝日だった。暗闇に恐怖感を抱いていた一青にとってはまさに救世主。それは神の導き手だといってもいい。こうしてワイン発祥地として知られるジョージアは、神々ゆかりの地としても機能しながら、一青の心の傷を癒していく。さらに彼がジョージアに辿り着く経路にも神の導きがあった。

神々しい横顔を完璧に再現できるのは山下智久だけ

 山下の公式コメントでは、トム・クルーズ主演「ミッション:インポッシブル」シリーズばりに異国から異国へ舞台を転々とする本作の見どころの一つとして、「絵替わりの面でも満足していただける」とも紹介されていた。基本的に東京がメイン舞台だった前作に対して、シーズン2は5ヶ国をめぐる。中でも主要な舞台となるのがジョージアなのだが、見逃せないのは神々ゆかりのジョージアに辿り着く前にギリシアを経由していたことだ。この経路順はワインの歴史を考える上でも重要かつ、ギリシアには神々が棲むオリンポス山があるというだけではなく、原作『神の雫』の続編『マリアージュ~神の雫 最終章~』(以下、『マリアージュ』)へのちょっとした目配せも織り込まれているからだ。

 神咲雫と遠峰一青による最終対決を描く『マリアージュ』は、一青の成長も垣間見える作品であり、少なからずシーズン2の参照元になっている。そして第23巻にはギリシアとジョージアを、ワインと料理のマリアージュであざやかに繋ぐ名場面がある。ある日、雫がワインのコーディネートを担当するエスニック料理店に、彼の腕が試されるゲスト客が来店。店の評判を左右する相手を満足させなければならない。二品目が鮑の生春巻。磯の香りと合わせたのは、白壁の家々が並ぶ美しい景色で有名なエーゲ海の島、サントリーニ島の土着品種アシルティコの白ワイン。続く蟹とパクチーの揚げ春巻には、ジョージア固有の品種ルカツィテリのオレンジワイン(アンバーワイン)。これがいかに神のマリージュだったか! サントリーニ島には酒と豊穣の神ディオニュソスの神殿があり、ゼウスの子・ディオニュソスはエジプトからギリシアにブドウを運んできた、言わばワインの創造主と考えていい。発祥地ジョージアと接続される意味は深く、神々しい。

 ルカツィテリはカヘティ地方カルトリの土着品種であり、幻のワインを探すカミーユと一青が辿り着いたワイナリーはカルトリにある。第3話でこのワイナリーの女将が二人をセラーに案内する場面がある。セラーの土中にはジョージア伝統の醸造に使われる土器(クヴェヴリ)がいくつも埋まり、その製法を初めて見たカミーユと一青は圧倒される。瓶詰めされたワインを保管するセラーに入ると、女将はこのワインは「神様に属するもの」だと力説する。これは売り物ではない。生産者だけで楽しむ分以外は近所の修道院に納める。実は、修道士とワインは切っても切れない関係にある。

 あのロマネ・コンティをも生み出す世界屈指の名醸地ブルゴーニュ地方に広がる主要な畑は、1098年に創立されたシトー派修道会の修道士たちによって耕された歴史的背景がある。神に仕える者として「祈り、かつ働け」をモットーに、朝から農作業に励み、神の産物であるワインを造った。畑が平地ではなく標高がある場所に位置するのは、神に近い場所だからでもある。だからこそ、ワインは「神に属するもの」なのだ。もう一つ興味深いのは、修道会を創立した場所が(ロマネ・コンティの畑もある)黄金の丘、コート・ドールにあること。中心地ボーヌは、美食の街ディジョンから列車で30分ほどだが、『マリアージュ』で雫が神のマリアージュを披露していたちょうどその時、世界中を飛び回る一青が降り立ったのがディジョンであり、宿を取ってもらったのがボーヌだった。ボーヌまでワイン街道(グラン・クリュ街道)を行く一青の横顔は、車窓に広がる偉大な畑を背景にして一際美しい。この神々しい横顔を完璧に再現できるのは山下智久だけではないだろうか?

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