「なにもない空間」に波が伝わるのはなぜ? 電磁場、量子場、重力場……『「場」がわかれば世界がわかる』を読む

竹内薫の『「場」がわかれば世界がわかる 電磁場・量子場・重力場 なぜ波が伝わるのか』が、2026年3月に講談社の科学新書レーベル、ブルーバックスから刊行された。本書は、2000年に出版された『「場」とはなんだろう なにもないのに波が伝わる不思議』(ブルーバックス)をもとに、2000年以降の知見を加えるなど一部改稿のうえ新装版としてよみがえった一冊だ。
「場」を通してたどる、物理学のダイナミックな思考の道筋
「場」という言葉自体は、誰もが知っている。その場、置き場、話し合いの場、学びの場——日常のなかでも頻繁に使われる言葉だ。だが、物理学における「場」とは何かと問われると、とたんに説明は難しくなる。電磁場、量子場、重力場……。言葉としては聞いたことがあっても、それが何を指しているのか直感的に理解するのは簡単ではない。本書は、その厄介で、それゆえに魅力的な「場」を通して、世界の見方をアップデートする本となっている。
本書では3つの「場」が解説される。第1章では電磁場の話を通して「場」の考え方を導入し、第2章から第4章にかけて量子場へと歩みを進め、最後の第5章で重力場へと至る。それぞれの「場」は、単に個別のトピックとして並べられているのではない。遠く離れたもの同士が力を及ぼし合うという素朴な見方から、空間そのものに物理的な性質を認める考え方へ。さらに、粒子と場の関係を問い直す量子場へ。そして最後に、時空そのもののあり方として重力を捉える議論へ。本書の構成は、「場」という概念が物理学のなかでどのように姿を変え、世界の見方を更新してきたのかをたどる道筋になっている。

とりわけ印象的なのは、第2章に配置された図19だ。『The Force of Symmetry』(V. Icke, Cambridge)から一部改変して引用されたこの図では、クーロンの法則、マクスウェルの電磁場、量子力学、量子場の違いが並べて整理されている。遠く離れたもの同士が直接力を及ぼし合うという見方から、空間に広がる場を介して力が伝わるという見方へ。そして、粒子と場を量子的に捉え直す段階へ。竹内による本文のわかりやすい整理と重なることで、抽象的な理論の変遷がぐっと見通しやすくなっている。
捉えどころのない「場」の話を読ませる竹内の語り

本書の最大の魅力は、その筆致の軽妙さにある。説明は決して平板ではなく、しばしば目の前で考えながら話しているような調子を帯びる。説明の随所に例え話や比喩が差し込まれ、時には「ダイアローグ」として対話形式の小話も挟まる。
さらに、本書は頻繁に脱線する。語源にまつわるエピソードから、学生時代の友人との飲み会の思い出まで、話題は自在に広がっていく。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に10ページ以上の紙幅を割く場面もある。
「場」という捉えどころのない難しい概念についての本でありながら、この語り口のおかげで楽しく読める一冊となっている。
加えて、本書には科学者たちのエピソードが豊富に盛り込まれている。ファラデーやマクスウェルから、シュレーディンガー、ファインマン、アインシュタインまで。理論の変遷は、単なる「正解の更新」ではなく、世界をどう捉えるかという発想の転換として語られる。だからこそ、「場」という概念の歴史も、乾いた学説史ではなく、人間くさい試行錯誤の集積として見えてくる。
「煮えきらなさ」と向き合う
新版に向けて新しく書かれた前書きに「このような煮えきらなさが、「場」を考えるときに誰もがぶち当たる困難なのだ」という一文がある。この「煮えきらなさ」という感覚は、本書を読むうえで重要な鍵になっている。科学は、何もかもをすっきりわかりやすく説明してくれる体系ではない。むしろ、わかったこととわからないことの境界を、何度も引き直しながら進んでいく営みだ。本書が読者に与えるのは、「場」の完全な理解というより、その煮えきらなさに耐えつつ、なお世界を見通そうとする視点である。
本書を読破しても、すべてがクリアにわかるとは限らない。だが、わからなさを抱えたままでも、世界は少し深く見えるようになる。その感覚こそが、「場」をめぐる思考のいちばん大きな醍醐味なのだ。
■書誌情報
『「場」がわかれば世界がわかる 電磁場・量子場・重力場 なぜ波が伝わるのか』
著者:竹内薫
価格:1,320円
発売日:2026年3月19日
出版社:講談社
レーベル:ブルーバックス

























