上橋菜穂子、四半世紀越し刊行の『神の蝶、舞う果て』がランクイン 直木賞『カフェーの帰り道』も存在感示す

上橋菜穂子、25年越し『神の蝶、舞う果て』

オリコン週間文芸書ランキング

 2026年1月第3週のオリコン文芸書ランキング(※1)は昨年末から引き続き雨穴『変な地図』(双葉社)と宮島未奈『成瀬は都を駆け抜ける』(新潮社)が上位を占める形となった。『変な地図』については累計70万部を突破し、著者累計発行部数(紙+電子、コミックス、翻訳版含む)は850万部を超えたとのこと。雨穴の作品は海外でもベストセラーになっており、その人気はもはや日本国内に収まらないスケールになっている。

 初ランクインの新刊では上橋菜穂子の『神の蝶、舞う果て』(講談社)に注目したい。<守り人>シリーズや『獣の奏者』などで多くの読者から支持される上橋が、1999年から2001年にかけて雑誌に掲載した作品を加筆修正した上で単行本化したものだ。約四半世紀の時を経て刊行された経緯などについては同書の著者本人による「あとがき 眠りから覚めた物語」に詳しく書かれているが、それだけにファンの期待も高かったことがうかがえる。

 さて、前回このコーナーでは第174回芥川賞・直木賞受賞作について「受賞決定後の1月第2週半ばより各書店では大々的な展開を行っていると思うので、第3週以降の推移を引き続き見届けたい。」と書いたが、1月第3週のランキングでは直木賞受賞作の嶋津輝『カフェーの帰り道』(東京創元社)が前週に続きランクインする結果となった。

 『カフェーの帰り道』は上野の繁華街を過ぎた先にある「カフェー西行」を舞台に、そこで働く個性豊かな女給たちの姿を描いていく連作短編集だ。当サイトの別記事で杉江松恋なども同様の指摘を行っているが(嶋津輝『カフェーの帰り道』なぜ直木賞を射止めた? 東京創元社「初受賞作」の意義を読み解く)大正から昭和にかけての時代背景を浮かび上がらせつつ、現代を生きる人間たちにも共鳴できる人物造形で読ませていく点が良い。そして登場人物の造形と同等に優れているのは連作短編集としての構成だろう。一編目の「稲子のカフェー」では「関東大震災から二年以上が経ち、あちらこちらでカフェーが再興していた」時期を描いているが、各編を読んでいく中でいつの間にか戦争の気配が登場人物たちに近づいていることに気付くはずだ。物語の読み味を変えながら、かつての日本が経験した過酷な現実にも読者は向き合うことになる。登場人物の魅力で軽やかに読ませつつ、重苦しい時代の姿もしっかりと描き出すという重厚な一面も持ち合わせる同作が支持されるのは、非常に納得が行く。

※1 https://www.oricon.co.jp/rank/oba/w/2026-02-02/

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