シリーズ完結編『成瀬は都を駆け抜ける』がオリコン文芸書ランキング堂々1位 ほか今年を代表する作品もランクイン

オリコン週間文芸書ランキング

2025年12月第2週のオリコン文芸書ランキングには、これまで当コーナーで紹介してきた話題作が引き続きランクインしている状態だ。
雨穴の『変な地図』(双葉社)のような所謂“体験型ミステリ”から各所で話題になった文芸誌の『GOAT』(小学館)、発売時から担当編集者による熱烈なプッシュを含め注目され、年末ミステリランキングのトップを獲得した櫻田智也『失われた貌』(新潮社)と、今年の文芸書の傾向を一望できるようなランキングになっているといえるだろう。
そのような中で第1位となったのは宮島未奈の『成瀬は都を駆け抜ける』(新潮社)。2週連続でオリコンの文芸書ランキング第1位を獲得したことになる。第21回本屋大賞などを受賞した『成瀬は天下を取りにいく』に始まる<成瀬>シリーズの第3作にして、完結編と銘打たれている作品だ。
『成瀬は都を駆け抜ける』は発売から10日で28万部を突破し、シリーズの累計発行部数はついに200万部を突破したという。書店店頭での盛り上がりにも熱が入っており、例えば芳林堂書店高田馬場店・書泉グランデ・書泉ブックタワーではオリジナルグッズを取り揃えた「成瀬あかりシリーズ完結記念“POP”UP SHOP」を1月2日より開催するとのことだ。
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」
『成瀬は天下を取りにいく』に収められている「ありがとう西武大津店」の中で、上記の鮮烈な一文とともに成瀬あかりは読者の前に現れた。「200歳まで生きること」を目標とする成瀬は周囲が驚く様な大胆な行動力を見せ、周りの人間も次第にその姿を見て変化していく、というのが<成瀬>シリーズの基本構造になっている。突飛な行動に出る成瀬を変な人物として見なす人間も出てくるが、彼女自身は第2作の題名のように「信じた道をいく」キャラクターとして描かれていく。
これまでも己の信念を貫く姿で読む者の心を熱くさせる大衆小説の主人公は多く書かれているが、成瀬の特徴は影響を受ける側からの視点へ徹底的に寄り添い、素朴な日常の中で胸が熱くなる瞬間を捉えてきたことにある。娯楽小説として大きな事件や派手な展開が用意されているわけではない。けれども日々のほんの些細な出来事も明るい方向に見方を変えてくれる成瀬の存在が、読者にとっては日々のすぐ傍にいる英雄のように見えるのだろう。『成瀬は都を駆け抜ける』の最後に収められている「琵琶湖の水は絶えずして」は、成瀬とともに読者が積み重ねてきた思いが溢れる様な1編になっている。ありがとう成瀬、という声が読後に響いてくるはずだ。






















