「企画に対して客観性を持て」 累計発行部数3000万部超えのマンガ編集者が「マンガの裏技」を公開 

小林翔『マンガの裏技』を読む

 1月29日のAmazon売れ筋ランキング「本」部門で15位に食い込んでいたのが、小林翔氏の『マンガの裏技 ヒット作を生み出す50のコツ』である。1月24日に刊行されたばかりの話題の一冊が、高順位にランクインすることとなった。

 著者の小林氏は、現役の漫画編集者として現在も小学館の『マンガワン』および『裏サンデー』で活躍している人物。担当作の累計発行部数は3000万部オーバー、『ケンガンアシュラ』『ダンベル何キロ持てる?』『モブサイコ100』『青のオーケストラ』といった人気作を手がけてきたヒットメーカーである。

漫画の「作り方のヒント」が満載

小林翔『マンガの裏技 ヒット作を生み出す50のコツ』(フィルムアート社)

 その小林氏が、長年の編集者経験をもとにして「ヒットするような漫画を作り出し、それを継続する方法」をまとめたのが本書だ。タイトルには『マンガの裏技』とあるが、裏技といってもハック的なノウハウをまとめた本ではなく、著者が経験の中で編み出した「こういう時にはこういった点に気を配るとよい」というヒント集のような作り。なんせ売れ筋の作品を生み出しまくっている人の書いた本である。さぞや漫画家を志す人にとっては有益な内容が書いてあるだろう……と思って読んだところ、一般的なビジネスマン、特に「企画を立て、動かす」という仕事を担わなくてはならない人にとっても有益な内容だった。

 本書は、漫画を作る上で必要な工程の上流から下流にかけて、順を追って小林氏が考える「作り方のヒント」を列挙した形となっている。まず漫画の根本的な部分である「企画・コンセプト」をどう立て、どう自己検証するかからスタート。キャラクターや世界観の作り方から、ストーリーの組み立て方、さらにコマ割りや作画の方法、商業デビューしたあとの編集者を相手にした立ち回りのノウハウまで、小林氏の経験をもとに微細なポイントに至るまでをぶっちゃけた内容だ。

 自分はそこまで大量に漫画を読む方でもなく、また特に漫画家になりたいと思ったこともない。が、現場で日夜漫画のことばかり考えて仕事をしている人のノウハウはやはり面白い。特にコマ割りやページをめくる際に読者に与える効果、キャラクターの表情を使った感情の表現方法や、汗や血といった液体の飛沫を飛ばすことで絵にどのような力が与えられるかなど、実際に絵を描かない人間からすれば「なるほどぉ~」と言いたくなるようなテクニックが満載である。実際の誌面や没になった案、打ち合わせ用の資料などがふんだんに盛り込まれているのも興味深い。

 特に、ネットで漫画が配信されるようになった昨今、紙媒体とネット配信ではテクニックが違ってくるポイントがあり、そのあたりについても詳述されているのが興味深い。このあたりは、2010年代の頭から漫画のネット配信に携わってきた小林氏ならではだろう。

企画に対して客観性を持て

 では実際に漫画を描く人にしか伝わらない・関係のないノウハウしか書いていないのかというと、そんなことはない。特に前半、企画を立ててそれをブラッシュアップしていく工程について書かれた部分は、なにかしらの企画職についている人間は全員読むべき内容だと思う。「企画の新しさ」とは一体どこから発生するのか、「やりたいこと」と「客にウケること」のバランスをどうとるか、継続して続けられる企画とはどういったものかなど、企画を立てるという工程で考えなくてはならないことがパンパンに詰まっている。

 特に小林氏が何度も繰り返し書いているのが、企画に対して客観性を持てという点だ。もちろん根本的には「漫画家が面白いと感じ、描きたいと思うものを描く」のが一番であると小林氏も考えている。その上で作品をヒットさせたいならば、読んだ人間がどう思うか、一体どんな人間にどう読んでほしいのかをしっかり考えろと、手を替え品を替えて主張する。

 自分もライターのはしくれなので、職業上「企画を立てる」というプロセスは切っても切れないところがあるのだが、この「企画を客観視してブラッシュアップする」という工程、本当に難しい! 自分が興味のないものに関連した企画を立てるのは大変難しいが、さりとて好きなものに関して他人にプレゼンテーションするような企画も塩梅が難しいし、そもそも企画を立てることは「なんか面白いこと考えて」という問いに答えるようなものであり、そのこと自体が大変難しい。本書にはこの難題を乗り越えるための具体的なノウハウがかなりしっかり書かれており、こんなにバラしちゃっていいのかと不安になるほどだ。

 というわけで『マンガの裏技』は、漫画家志望の人はもとより、職務上「何か面白いこと、新しいことを考えなくてはならない」という立場の人にとっても、ヒントが満載の一冊となっている。総ページ数400P超というかなりボリューミーな本だが、各章は短くまとめられており、目次から気になる部分を拾い読みするだけでも得るものはあるはず。漫画が好きでもそうでもなくても、手に取ってみるべき一冊である。

■書誌情報
『マンガの裏技 ヒット作を生み出す50のコツ』
著者:小林翔
価格:2,860円
発売日:2026年1月24日
出版社:フィルムアート社

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