OLが『ガンダム』のキシリアに転生? 実写『秒速5センチメートル』ノベライズに新人賞受賞作まで、話題作続々の9月ラノベ

OLが『ガンダム』のキシリアに転生?

 2025年9月のライトノベル新刊では、上下巻で刊行の築地俊彦『機動戦士ガンダム 異世界宇宙世紀 二十四歳職業OL、転生先でキシリアやってます』(角川スニーカー文庫)が話題を集めそう。タイトルどおりに現代で会社勤めをしていたガンダム好きの女性が、異世界に転生するとそこが『機動戦士ガンダム』の世界だったという設定。ただし時間はアニメに描かれる1年戦争よりずっと以前で、まだ子供だったキシリアの中で意識を取り戻した主人公は、周りの状況を見てどう考えてもアニメと同じ展開になりそうもないと考え、持てるガンダムの知識を繰り出し歴史を宇宙世紀(UC)に戻そうと奮闘する。

 ドラゴンノベルスとして2022年に刊行され、ガンダム世界の架空戦記的な改変の可能性を示唆したという意味で先駆的な作品の待望の文庫化。悪役令嬢に転生してしまい破滅の運命から逃れようとするのではなく、無理矢理アニメのような悪役令嬢としてのキシリアになってジオンとザビ家を連邦との戦いに引きずり込もうとする展開が面白い。

 ガンダムにTVシリーズと劇場版があって微妙に違っている設定をつつき、富野由悠季監督による小説版との違いも持ち出すキシリアを通して、ガンダムファンが抱いていた思いもスッキリさせられる。UCどおりに進めるとは、キシリアやザビ家が大変な事態に見舞われることだが、果たしてそうなってしまうのか? ノベルス版からアップデートされた部分もあって、既読の人も改めて読んでおきたい作品だ。発売中。



 続いてこちらは“正統派”の脱悪役ストーリー。空野進『黒幕一家に転生したけど原作無視して独立する』(Kラノベブックス)は、好きなゲームの世界に転生したものの、確実に破滅するラスボスだったことからどうにかして運命を変えようとするユーリが主人公。ゲーム世界で黒幕だった一家を出て辺境の領主となるが、無能と見なした父親の手を逃れ持てる力を発揮して領地を最強にしてしまう。逆境から這い上がっていく展開を楽しめそう。9月2日発売。

 転生ものからもう1作。あおぞら『一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた』(GA文庫)は体の一片でも残れば再生できる「無限再生」のスキルを獲得して転生した一般兵士の青年ゼロが主人公。もっとも、転生した世界には人体を跡形もなく消し飛ばす魔法が存在していて、そこで「無限再生」の力を使える余地を作って活躍しているうちに、美女からアプローチされるようになる。不死だからといって安心していられないスリリングな展開を楽しめそう。9月15日発売予定。

 『後宮楽園球場』や『ボクは再生数、ボクは死』といった独特の作品で熱い支持を集める石川博品の新作『アフリカン・ヴードゥー・ジュージュツ』(エンターブレイン)が登場。タイトルからも興味を誘われるが、内容も家族を殺され家を焼かれ呪いに襲われているルヌエが、ホンゴ・センシから教わったジュージュツを身に付け旅に出るというもので、どのような内容なのかまるで想像できない。『近畿地方のある場所について』の背筋が絶賛しているというからにはホラー小説なのか。それとも格闘小説なのか。読んでのお楽しみといったところ。9月29日発売予定。

 harao『日替わり彼女~初恋はウソつきの始まり~』は第19回講談社ラノベ文庫新人賞で佳作を受賞した作品。高校生の早崎真也は事故で記憶を失うが、クラスメイトの瀬川さんに優しくされて付き合うことになる。ところが瀬川さんの親友の相葉結希から、自分が記憶喪失になる前の真也と恋仲だったことを告げられ、日替わりで2人と付き合うことになってしまう。記憶を失ってしまっているだけに、虚実も不明な状況で進む2人との関係が行き着く先が大いに気になる。9月2日発売。

 新人賞では、第19回小学館ライトノベル大賞で優秀賞の大雪八重『龍の翼の旅路で』(ガガガ文庫)が9月18日発売。100年にわたって繰り広げられた人類と魔物の「大陸戦争」は勇者が魔王を討伐して終結。それから3年後の世界で、元剣聖部隊のフォルクや幼馴染みのフィーネが魔脈探しの旅に出かけていく。平和になった世界を彷徨う戦士たちの行き場を問うような物語を楽しめそう。

 新シリーズでは、大黒尚人『悪役家族 ~偽りの最凶親子は平和を愛す~』(ファンタジア文庫)が登場。世界の暗部に君臨してきた闇の組織の最高幹部だった 天才美女と護衛を務めてきた戦闘士、そして最終兵器だった少女が組織から放り出され、普通の家族として暮らすよう指令されるという設定がユニーク。規格外の特殊能力を隠して生きる者たちの日々がどのようなものか気になる。9月20日発売予定。

 猿渡かざみ『殺し屋JKとハンバーガー』(電撃文庫)が女子高生の殺し屋たちがお仕事をしてハンバーガー屋でダベる日々が描かれギャップで楽しませてくれそう。9月10日発売。九曜『どもども、部活やめた同盟です!』(MF文庫J)はサッカー強豪校に来たものの、数ヶ月で退部してしまった藍井咲良と演劇部をやめた水瀬美汐が同じマンションに住んでいることが分かり距離感を縮めていくストーリー。恋愛になって成就するのかに関心。9月25日発売。


 人気シリーズでは、TVアニメが好評放送中の「わたなれ」シリーズ最新刊『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)8』(ダッシュエックス文庫)が9月25日に発売。刊行から25周年となる時雨沢恵一のシリーズ最新刊『キノの旅 XXIV the Beautiful World』(電撃文庫)は9月10日発売。気になるところでは新海誠監督のアニメ作品を実写化した10月10日公開の映画『秒速5センチメートル』を脚本家の鈴木史子が自らノベライズした『秒速5センチメートル the novel』(角川文庫)が9月22日発売。アニメとの違いを確認できる1冊になりそうだ。

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