大槻ケンヂの音楽が、小説家のクリエイティブを刺激するーーオーケンと、筋少どっぷりの小説家による『筋肉少女帯小説化計画』座談会

大槻ケンヂ『筋肉少女帯小説化計画』座談会

全国民、1回は小説を書かなきゃいけない

――今回の本では各自が選んだ曲を小説化していますが、対象曲以外にも筋少がらみのネタを作中に入れている方が多いのが、ファンとしては楽しかったです。なかでも空木さんの「ディオネア・フューチャー」はネタ数が多い。

空木:「ダ・ヴィンチ」7月号の大槻さんとの対談で辻村深月さんが、みんなズルい! とおっしゃっていて、やっていいことだったのか……。

大槻:私はあからさまに引用しなかったのにみんなやりまくっていて、なんだそれでよかったのかって、辻村さんがおっしゃっていましたね。

――そういう辻村さん自身も「中2病の神ドロシー」を題材にしつつ「サーチライト」をちょっと織りこんだりしていますけど。

大槻:だから、筋肉少女帯をある程度知っている読者と知らないで本を手にとった読者とでは、読書の意味あいが異なるだろうと思います。

柴田:曲を知らなくても、青春の物語として読めますけど。

大槻:逆に和嶋さんの「福耳の子供」には、筋少関係は出てこない。というのも、人間椅子と筋少はよく一緒にライブをやるんですけど、バンド仲間であってリスナー同士ではないからなんだよね。筋少用語みたいなものが和嶋さんの作品には出てこないけど、そのおかげで小説集のバランスがとれたなという読後感がありました。

――最後に収録された大槻さんの小説には筋少の歴史も書きこまれているから、バンドの解説にもなっているし、本をまとめるものになっていますよね。

大槻:あんまり筋少を知らない読者もいるだろうから、だいたいこんなバンドだよということを書こうと思ったんです。『人間椅子小説集』の時も、僕はちょっとその役を担って、人間椅子というバンドはこんな印象だよと書いた記憶があります。

――ベテラン作家のふるまいですね。

滝本:すごい余裕。

大槻:いやいや。ライブのセットリストを考える感じです。バラードがあってレア曲があってド定番で終わるみたいな。それと同じで小説集の流れはあるだろうと考えました。もう、ほかのバンドも小説集を作ってほしい。指名制度で出しなさいとかいえたら楽しいのに。

滝本:そうですね、歴史のあるバンドはたくさんあるし。

大槻:メンバーのなかに誰か書く人がいると企画が成立しやすい。

空木:アーバンギャルドの松永天馬さんは小説を書いていますから、いいかもしれない。大槻さんは筋少以外にもバンドをやっているから、次は特撮で出すとかどうですか。

大槻:あっ、いやー、また小説書くのかって……。

空木:特撮を出したら、次にオケミス(大槻ケンヂミステリ文庫)でもう1冊。

大槻:いうのは簡単だけど……。胃がキリキリする……。

全員:(笑)。

――大槻さんはバンドで歌詞を書いているわけですけど、物語性があるものが多いし、バーッと講談みたいにセリフが入って言葉数の多いものもある。この歌詞なら小説になるということはないんですか。

大槻:逆に、小説にしようと思ったものが歌詞にしたらまとまっちゃって、もう小説にすることないやと思ったのはいくつかあります。「あのコは夏フェス焼け」は、240枚くらい書く予定があったんですけど、歌詞を書いたらいいやとなりました。ミュージシャンだからでしょう。映画や小説で、これが曲だったら3番まであるなと思うことがあります。でも、3番で終わるようにできていないところが、映像や文章の面白さなんでしょうね。

――大槻さんが小説を書く方向に持っていきたいんですけど、なかなか難しいですね。

大槻:全国民、1回は小説を書かなきゃいけない法律を作ったらどうだろう。

空木:ディストピアだ。

柴田:絶対に書いた方がいいと、ワシはずっと思っていますよ。ふり絞れば、人は面白いものが出てくる。

滝本:じゃあ、全国民が1回小説を書いて、1回バンドをやってみる。全員、ちょっと曲を作ってみろって。

――滝本さんは、エリーツというバンドを組んでいるんですよね。

滝本:友だちの作家や編集者とバンドをやっていて、僕はキーボードと打ち込み担当です。定期的にスタジオで練習しています。

大槻:ライブは?

滝本:けっこうやってます。バンドでグッズを売ることってありますけど、僕たちは『エリーツ』って同人誌を作って文学フリマ(作り手が自ら売る文芸の展示即売会)で売って、なかなか儲かっているんです。

大槻:へえー、素敵。

滝本:文学フリマは気楽に書けるし、アマチュアと一緒にプロも参加して初心に戻れる。

大槻:新人賞に出すとか雑誌に載せるとかハードルを上げず、好きなことが書けるわけですね。面白いことに『筋肉少女帯小説化計画』を出してから、けっこうな数の小説付きファンレターが送られてくるようになったんです。それぞれが筋少の曲で短いものを書いてくる。それで小説書くことに目覚める方がいたら、すごくいいなぁ。

滝本:やっぱり大槻さんと筋肉少女帯って、人のクリエイティブの力を後押しするというか、私もやりたいという気持ちにさせてくれるんですよ。『筋肉少女帯小説化計画』でそれは、さらに広がると思います。

■書誌情報
『小説集 筋肉少女帯小説化計画』
著者:大槻ケンヂ、空木春宵、柴田勝家、滝本竜彦、辻村深月、和嶋慎治
価格:2,090円
発売日:2025年5月16日
出版社:KADOKAWA

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる