能楽×サスペンス×百合クロニクル? ジャンル分け不能、柴田勝家『秘曲金色姫』が面白い

柴田勝家といえば、織田信長配下の有名な戦国武将である。しかし現在、これだけでは説明不足だ。なぜならその名前をペンネームにしたSF作家がいるからである。その柴田勝家の最新長篇が『秘曲金色姫』なのだ。
本書の帯に、「能楽×サスペンス×百合クロニクル」「時を超えて紡がれる能楽スペククル!」と書かれている。おそらく編集者が考えたのだろうが、苦労してひねり出したと思われる。というのも物語の内容を説明するのが、実に難しいのだ。現在、この書評を書いている私も、粗筋をどうしたものかと悩んでいる。まあ、愚痴を零してもしかたがないので、なんとかしてみよう。
本書は「鼠浄土」と名付けられたパートから始まる。新宿歌舞伎町のトー横にたむろし、SNSにダンス動画をアップしているキャイコ。彼女がストーカーに困っていると知ったジローは、なんとかしたいと思って、茨木から上京してきた。キャイコに誘われ、ラブホに行ったジローは、そこでキャイコが殺したストーカーの死体と遭遇。しかし死体はストーカーではなく、キャイコの父親だった。死の間際に父親がいったという「〝こんじきひめ〟を忘れるな」という言葉に、いかなる意味があるのか。キャイコとジローは死体をキャリーケースに詰め込み、どこかに捨てようとするのだった。その後も「鼠浄土」のパートは何度か挿入され、二人の無軌道な行動が描かれていく。そして後半になると、他の話と深く関係していることが明らかになるのだ。なお付け加えると「鼠浄土」は、御伽噺「おむすびころりん」の別題である。そこに込められた作者の意図を考察してみるのも一興だ。
この「鼠浄土」とは別に、「落伍」「小石川」「千穂太夫」「次郎五郎」「金色姫」の各話が収録されている。「落伍」は、銀座にある会員制ラウンジ『シルク』で、師藤正伍というラブホのオーナーが、ラウンジ嬢相手に能の話でマウントを取る場面から始まる。しかし新たに席についたマユというラウンジ嬢は、能の知識があるようだ。そしてマユは正伍に、「金色姫」という能の題名を口にする。
それと並行して、正伍が手に入れた祖父の臣太郎が残した日記に基づくらしい、大正時代の話が綴られていく。世阿弥の秘伝書を発見した吉田東伍博士の書生をしている少年の臣太郎。博士に代わり、安田財閥の長・安田善次郎が所持する屋敷にある古書を、女中のキヌに手伝ってもらいながら調べている。現代の正伍とマユ、大正時代の臣太郎とキヌ。それぞれの時代の男女のドラマは、どちらも恐るべき結末を迎える。その陰には『金色姫』の秘密が関係しているようだ。
ちなみに茨木には、養蚕の女神・金色姫が、インドからうつろ舟で常陸に流れ着き、養蚕の技術を伝えたという〝金色姫伝説〟がある。マユや真由という女性の名前が繭に通じることを始め、蚕を想起させる部分が多い。これがストーリー全体に、独自の光彩を与えているのだ。