『薬屋のひとりごと』アニメと原作の見せ方はどう違う? シナリオ集からわかる製作陣の意図

『薬屋のひとりごと』アニメと原作の違い

言外に忍ばせた脚本家たちの意図

 千葉美鈴も「原作の面白いところはもちろん、シーンの空気感や温度感、そしてニュアンスを変えないように心がけたつもりです」と、柿原同様に原作を尊重したことを話している。加えて「草花を意識して書きました」とコメントしていて、第16話の「鉛」で出した栗の木について言及している。原作の第2巻「第5話 鉛」では細工職人の家の庭に立っていて、室内に太陽の光が差し込むのを邪魔していると書かれている。これをシナリオでは、「窓の外、栗の木が光を遮っている」と書き記して絵にすることを求めている。

 さらに、「贅沢」「豊かな歓び」「私に対して公平であれ」「私を公平にせよ」といった栗の花言葉を注釈として書き添え、そのエピソードが語ろうとしてることについて、重要な意味を持つ木であるのではといった想像をめぐらせている。原作を読み込み作者の意図を探り、それをどうアニメで描けば伝わるかを考えシナリオにしていく脚本家の仕事ぶりが伺える。

 第3話「幽霊騒動」や第18話「羅漢」などを担当した小川ひとみは、第1期では監督で第2期は総監督を務めた長沼範裕が、愛を描きたいといったことを心に止めてストーリーに登場する様々な愛を描いていったという。綾奈ゆにこは、第13話「外廷勤務」で監督から「2クール目は壬氏の気持ちにフォーカスしたいとの指示があり、猫猫に対するリアルキョン(照れる等)を意識して」書いたとのこと。原作にはない猫猫を緑青館まで壬氏が迎えに来るシーンを入れ、化粧をして着飾った猫猫に「壬氏、綺麗な猫猫にどきどき」する描写を添えて、2人の関係が進み始めたことを感じさせた。

 こうした脚本家たちの意図を知ると、第2期の印象的なシーンについてもどのような思いが込められていたのかが知りたくなる。第1期のシナリオ集が出た以上、第2期の登場も期待して良いだろう。そして第3期のアニメ化も。

 第48話「はじまり」が原作では第4巻「二十二話 狐につままれた」という章題だった理由が分かる展開を経て第2期が終わっても、『薬屋のひとりごと』の物語は続く。1巻1クールのペースなら現時点で残り12クール分もある訳で、それがアニメ化されていくなら、医官手伝いとなる猫猫の同僚として登場する姚(ヤオ)や、高順の息子の嫁で羅漢以上に得体の知れない雀(チュエ)といったキャラクターがどう動き、どう喋るのかを見ることができるだろう。

 もちろん、猫猫と壬氏の関係が少しずつ進んでいく様子もしっかりと描かれていく。見たければ、今のアニメ化を応援し、原作を応援し続けるしかないだろう。

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