3球しか投げられない体で甲子園を目指すーー斬新すぎる野球漫画『サンキューピッチ』の魅力とは?

斬新な野球漫画『サンキューピッチ』の魅力

『ハイパーインフレーション』に通じる独創的な面白さ

 また、同作においてゲームの“駒”になるのは桐山だけではない。実力はあるものの極端にプレッシャーに弱いエース投手の三馬、野球初心者ながら物事を分析・攻略することに長けた伊能など、尖った性能をもったキャラクターが多数登場する。小堀と広瀬は、そんな癖のある選手たちを活用して戦略を練り上げていく。

 そして、時には駒だったはずの登場人物が戦略を超えた活躍を見せることもあり、試合の行方は誰にも予想できない方向へと進む……。

 こうした物語の展開は、作者・住吉九の前作にあたる『ハイパーインフレーション』を彷彿とさせる部分がある。同作は2020年11月から2023年3月まで「少年ジャンプ+」で連載されていた作品で、身体から精巧な贋札を生み出せる力を得た少年・ルークが、巨大な帝国の支配に抗おうとする物語だった。

 差別的な扱いを受けるガブール人で、地位も財産も持たないルークは、贋札を生む力だけを頼りに大人たちの権謀術数と張り合っていく。いわばチート能力を使って、金と権力という残酷な世界のルールに勝負を挑むという設定だ。

 『サンキューピッチ』が高校野球というゲームを攻略する話であるのに対して、『ハイパーインフレーション』は経済活動というゲームをめぐる話が描かれていた。とはいえいずれも「ルールの穴を突いたときに生まれる爽快感」という楽しさを描き出した作品と言えるのではないだろうか。

 また、常人の想像力が及ばないような奇人変人が次々と出てくるところも前作との共通点だ。

 はやくも漫画ファンのあいだで大きな話題を呼んでいる『サンキューピッチ』だが、物語はまだ始まったばかり。単行本も2巻しか刊行されていない。絶好のタイミングなので、ぜひ今のうちに読み始めてほしい。

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