村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』から考える、映画『アフター・ザ・クエイク』の見どころ
村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』を原作とする映画『アフター・ザ・クエイク』が、10月3日より全国公開される。監督・井上剛、脚本・大江崇允によるこの映画は、NHKで今年4月に放送されたドラマ『地震のあとで』の物語を共有しつつ新たなシーンを加え、映画版オリジナルの編集が施された作品になることが発表されている。
『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫)は幼少年期を兵庫県で過ごした村上春樹が、阪神・淡路大震災をテーマに書いた連作短篇集である。すべて1月の地震と3月の地下鉄サリン事件に挟まれた1995年2月を舞台とする収録作は、はじめ文芸誌『新潮』1999年8月~12月号に5作掲載され、2000年2月の単行本刊行にあたり書き下ろし作「蜂蜜パイ」が追加された。岡田将生、鳴海唯、渡辺大知、佐藤浩市がそれぞれ主演となるドラマ・映画版では、以下の4作が取り上げられている。
■「UFOが釧路に降りる」
東京の自宅で震災に関する報道をひたすら見て過ごし、夫の小村が話しかけても何の反応も示さない妻。山形出身で神戸に親戚もいないはずなのに、なぜ?地震の5日後に妻は姿を消し、そのまま離婚へと至る。それからしばらくして1週間休暇を取ることにした小村は、職場の同僚から小さな荷物を運んで欲しいという理由で釧路行きを勧められる。予定を立てるのも面倒だったのでその奇妙な提案を受け入れ、北海道へと旅立った小村だったが……。
■「アイロンのある風景」
高校三年生の時に家出をして所沢から電車を乗り継ぎ、茨城県の小さな町に住みついた順子。彼女は勤めているコンビニの常連客・三宅さんが年中海辺で行っている焚き火に、彼氏の啓介を連れてその日も参加していた。そこでは、おのずと前月の地震のことが話題に上がる。神戸の方出身で〈その話、やめようや〉と、一度は言った三宅さん。だが、〈三宅さんってさ、ひょっとしてどこかに奥さんがいるんじゃないの?〉という順子の言葉をきっかけに、自分の事そして「死」について語りだす。
■「神の子どもたちはみな踊る」
善也は仕事帰り、霞ヶ関駅で地下鉄の乗り換え途中に、耳たぶの欠けた男を目撃する。〈善也のお父さんは『お方』(彼らは自分たちの神をそういう名で呼んだ)なんだよ〉。彼はとある教団の信者である母親に、こう言われて育ってきた。後から聞いたところだと、母は右の耳たぶが欠けている独身の医者とまぐわり(彼女は性的な話になると古風な言葉を使う)、避妊したにもかかわらず妊娠。相手が父親であることを認めないことに傷つき、死を考えつつふらふら道を歩いていた時に教団の関係者に助けられ、息子を「お方の子」として産んだのだった。
困っているときに助けてくれない〈父なるものの限りない冷ややかさ〉に疑問を持ち、13歳の時に信仰を捨てた善也。彼は前の日に記憶を失うくらい酒を飲んでいた自分と、今頃信者たちと関西でボランティア活動中の母との距離が何光年も離れている感覚を抱きつつ、父親かもしれない男の後を追う。
■「かえるくん、東京を救う」
仕事から帰ってきた片桐がアパートの部屋に入ると、そこには巨大な蛙が待ちかまえていた。〈ぼくのことはかえるくんと呼んで下さい〉。そう自己紹介する蛙は、片桐に急ぎの用件があるという。2月18日の朝8時半頃に大地震が東京を襲うことになっている。震源地は、片桐の勤め先である東京安全信用金庫新宿支店の真下。ついてはそれを阻止するため、地震を起こそうとしている「みみずくん」との闘いに協力してほしいというのだ。





















