「作家さんが挑戦できるレーベルにしたい」 新創刊の文芸レーベル「MPエンタテイメント」野口俊樹が語る編集者の役目

MPエンタテイメント・野口俊樹インタビュー

創刊に向け、手探りのなか掴んできた反響と実感

――より広い層に届けるため、現段階で意識していることはありますか。

野口:まずはレーベルを知っていただかないことには始まらないので、noteやXの発信は頻繁に行っています。最近始めたのが「偏愛小説10選」シリーズ。刊行第1弾の著者である楠谷佑さん、そして『怪異―百モノ語― 僕が君に語りたい百の怖い話』の著者・椎葉伊作さんそれぞれに、偏愛する小説を10作あげていただき、noteの記事にしたんです。個人的に、自分の好きな作家さんが、どんな小説を読んできたのか知りたいし、読んでみたいと思ったのがきっかけですが、これがけっこう、反響が大きくて。10選に選ばれた方が喜んでくださるなど、作家さんたちの輪も、これをきっかけに広がってくれたら嬉しいですね。
※「MPエンタテイメント」のnote:https://note.com/mpent_book

――作家さんへの依頼だけでなく、そうした試行錯誤もおひとりで重ねてきた半年間、どのような手ごたえを感じていらっしゃいますか。

野口:編集者としての経験は半年と浅いですが、もともと社内チャットで小説をすすめるときにも、どうすればこの物語の魅力を、興味の薄い方に伝えられるだろう、読んでみたいと思ってもらえるだろう、ということは意識していたんですよ。学生時代も、自分で言うのはおこがましいのですが、本質をつかむのがうまいと言われることが多くて。おそらく、自分が小説を読んでおもしろがるだけでなく、おもしろさの理由を言語化することや、そもそも作家さんが何を描こうとして物語が生まれているのかを、分析することがわりと得意なのかもしれないなと、作家さんとの打ち合わせを通じても、感じ始めているところです。小説という芸術作品を、商品として世に売り出すためにどのようにパッケージすればいいのか、作品のフックをどのように引き出すべきなのか。編集以外の仕事をしてきたからこそ、多角的な視点をもってできるかもしれないな、とも思っています。

――ちなみに、野口さんが読みたいと思う小説、世に送り出したいと思う魅力というのは、どんなところにあるんですか?

「編集者歴半年なので」と謙遜する野口氏だが、インタビューからは作家にも十分信頼されるであろう深い知識と物語への熱量が感じられた。

野口:正直、なんでも読みたいですし、おもしろいものを世に送り届けたいというのが本心です(笑)。驚きも、怖さも、コミカルさも、技巧も、美しさも、モチーフも、キャラクターも大好きなので。だた、あえて“私の好き”を言葉にするなら、文章で物語ること、そして読むことという行為そのものに、私は興味があるんですよね。たとえば以前、社内チャットでおすすめした古泉迦十さんの『火蛾』は、そのテーマにもアプローチした作品だと思っています。物語が物語られることの意味がかなり印象的でした。私はそんな作品にたくさん触れて、どうしてこの言葉を使おうと思ったのか、どうしてこの言葉の積み重ねで物語がつくられているのか、その意味みたいなものを考えたいです。

 だから、実をいうと、ミステリだとかホラーだとか、大枠のジャンルみたいなものにはそんなに興味がないんです。「MPエンタテイメント」にその枠をつくらなかったのも、ただ小説としておもしろいかどうか、だけを問いたかったから。さまざまなコンテンツが溢れる現代において、あえて小説というかたちで物語に挑む意味のあるものを、私は刊行していきたい。そのなかで、新しい知見を得られたり、未知のおもしろさに出会えるようなものを。

――だから「じぶん時間に、いつもと違う刺激と楽しみを」なんですね。

野口:紙の本を読んでいる人の数は確かに減っていますが、世の中に物語は絶対に必要で、求める人はいなくならないと思います。もちろん、人間にとって最優先は生存ですから、非常時にエンタメはあとまわしにされて当然ですし、どうしても本を読めない時期というのもあるでしょう。

 でも、数十年前に刊行された本を読んで、当時の価値観に触れることで今を見つめ直したり、逆に現代を描いてはいても、自分とは真逆の概念に触れて視野が開けたり、ひとりでは凝り固まってしまう頭のなかをほぐし、気持ちをチューニングしていくことで、救われていくものもある。というか、私自身が日々、そうして救われ続けて生きているからこそ、何か読みたくなったときは「MPエンタテイメント」から探せばいい、と思ってもらえるようなラインナップをそろえていきたいと思っています。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「名物編集者」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる