『ある魔女が死ぬまで』『ふつつかな悪女』などアニメ化作品も 見逃せないライト文芸の新刊タイトル

猫まみれアンソロジーなどライト文芸の新刊

「このミステリーがすごい!」編集部編『猫で窒息したい人に贈る25のショートミステリー』(宝島社文庫)

『猫で窒息したい人に贈る25のショートミステリー』(宝島社)

 忙しい毎日のなかで、腰を据えて長編小説を読む時間はなかなか取れないが、ちょっとした時間に物語に浸りたいと思う人は少なくないだろう。そんな人にお薦めしたいのが、宝島社のショートショートシリーズだ。累計145万部を突破した人気シリーズの最新作は、「このミステリーがすごい!」大賞出身の豪華作家が集結した“猫×ミステリー”。25作品猫まみれという、猫好きにはたまらない一冊に仕上がっている。なおミステリーと聞いて警戒する人もいるかもしれないが、人間が死ぬ作品はあっても、猫が死ぬ作品は一つもない。その点も安心して手に取ってほしい。

 以下、個人的に気に入った作品を数編ピックアップしたい。『珈琲店タレーランの事件簿』で知られる岡崎琢磨の「優しい人」は、夫の死と住環境の変化で頭痛に悩む女性と、ベランダに現れたシャム猫の交流を描く。短いページの中で巧みに構成されたミステリー要素と、あたたかな読後感がなんとも心地よい。おぎぬまXの「真っ白な目撃者」は、空き巣に入った男の犯罪から浮かび上がる白猫への愛情が心を打つ。小西マサテルの「猫は銀河の中を飛ぶ」は、演劇×『銀河鉄道の夜』×キジトラ猫を題材に、舞台で起こるアクシデントを鮮やかに活写する。他にもバラエティに富んだ作品群が収録されている本書。ぜひあなた好みの一編を見つけてみてほしい。

新井素子、須賀しのぶ、椹野道流、竹岡葉月、青木祐子、深緑野分、辻村七子、人間六度『すばらしき新式食 SFごはんアンソロジー』(集英社オレンジ文庫)

『すばらしき新式食 SFごはんアンソロジー』 (集英社オレンジ文庫)

 食を題材にした小説はライト文芸でも鉄板の人気を誇るジャンルである。今回取り上げる『すばらしき新式食』は、“SF×食”をテーマに8名の作家たちが集結した豪華アンソロジー。ごはんものの醍醐味である美味しそうな食べ物描写を味わえる小説から、ディストピアテイスト漂う作品まで、ユニークな8編を楽しめる。

 深緑野分の「石のスープ」は、肉も野菜もなしに無限にスープを生み出せる石をめぐる物語。天才博士の発明がもたらす皮肉な結末と、栄養満点だがなんとも食欲をそそらない石のスープの描写が強烈なインパクトを残す。青木祐子「最後の日には肉を食べたい」は、ルカという謎の宇宙生物に寄生された女性・美宇を主人公にした物語。ルカは肉を媒介に移動し、生殖のために仲間を探している。人間と謎の生物が織りなす奇妙な共存関係、そしてユッケやタルタルステーキなどの肉料理が醸す不穏な気配が、独特の世界を生み出している。

 以上ディストピア色が強めな二編を取り上げたが、ラストを飾る新井素子の「切り株のあちらに」は、少子化や移民、食の不均衡といった今日的な社会課題をテーマにした一編だ。物語の舞台は、惑星間移民に乗り出し人類がネオ・ジャパンで暮らす未来。世界の間違いを正そうとする少女の正義感と、彼女の間違いを知りつつも見守る祖父の姿、そして作中に登場する「ぎゅっ」と手を握る描写が心に染みる。字数の関係ですべてを紹介できなかったが、どの作品も魅力的なのでオレンジ文庫読者のみならず、SF好きにもお薦めのアンソロジーである。

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