櫻井裕一×高野聖玄が明かす、トクリュウ=匿名犯罪者の脅威「あらゆる点で、従来の犯罪集団と違う」

歌舞伎町がトクリュウの活動の拠点に

――トクリュウの出現は、暴力団対策法に伴う暴力団の弱体化や、半グレが準暴力団扱いされるようになったこととも無縁ではないのでしょうか。
櫻井:関係は大いにあります。暴力団対策法で、暴力団は表に出られなくなってきました。というのも、犯罪がバレてしまうと組が潰れてしまうためです。そこで、自分のところに捜査が及ばないよう、トクリュウを使って犯罪をさせているのです。さすがにこのままではいけないと、警視庁もトクリュウを取り締まる専門の部署をつくっています。実行犯だけを捕まえても意味がないので、全体を仕切っている首謀者を捕まえることが大事ですからね。
――歌舞伎町のホストクラブでは、遊びに来た女の子に多額の売掛金を負わせる制度が社会問題化しました。ここにもトクリュウが絡んでいるそうですね。
櫻井:歌舞伎町が犯罪の舞台になるのも、町全体の匿名性の高さが大きいためです。ホストの売掛金を使って取り立てること自体は、暴力団もやっていました。しかし、暴力団は自分たちが捕まるリスクを避けるため、トクリュウを使うようになりました。売掛金はトクリュウの資金源でもありますが、同時にヤクザの資金源になっているのです。女性を風俗に勧誘するスカウトにもトクリュウが入り込んでいるので、根深い問題だと思います。
――2020年から続いたコロナ騒動が、ホストクラブ業界に与えた影響も大きいのでしょうか。
櫻井:飲食店や風俗店の自粛要請によって、どこのホストクラブも売上が大幅に落ちてしまいました。そこで、店の運転資金を得るために、売掛金で積極的に金を使わせるようになったのです。あと、トクリュウがホストクラブと繋がりをもつのは、犯罪で得た金を“洗浄”しやすいため。犯罪で得た金を売掛金のように扱い、ホストクラブの売上として銀行に入れたら、伝票も細かく書いているわけでもないので、税務署も追跡しづらいのです。
高野:コロナが始まって一年目は、都の自粛要請に応じ、歌舞伎町も半分くらいの店がやっていませんでした。しかし、店側ももうやっていられないとなって、店を積極的に開けるようになった。人々も遊ぶ場所がないので、歌舞伎と六本木の水商売に一極集中する現象が起き、莫大な金が流れ込んで一種のバブルになったのです。そこに目をつけたトクリュウがホストクラブなどを資金洗浄に使うようになったようです。
――ホストクラブはシャンパン一本が数百万といった具合に非現実的な世界ですから、巨額のお金を紛れ込ませてもわかりにくいですね。資金洗浄にもってこいといえます。
高野:あと、ホストクラブとヤクザや半グレの中間には、トラブル対応をするホスト業界出身の人間がいます。彼らがトクリュウや組織との調整役になっているのが最近の状況のようです。今はもはや、暴力団がホストクラブの経営者と直接やり取りするようなことは減りました。そのかわり、かつて業界にいたちょっと悪い人間や、業界を知っている人間がトラブル対応係として、過去に暴力団員がやっていたケツもち的な役割を担うようになってきているようです。
サイバー攻撃が増加している

――トクリュウと並んで世間を震撼させている匿名犯罪といえば、企業を狙ったサイバー攻撃ですね。
高野:サイバー攻撃を行う犯罪者には個人で行っている者もいますが、多くは匿名かつ流動的な犯罪グループによるものとみていいでしょう。そういう意味では、トクリュウと似た形態とも言えます。そういった集団がサイバー空間で行う最大の犯罪ビジネスに当たるのが、ランサムウェアです。企業などを標的にしてサーバーにランサムウェアを侵入させて、システムなどを暗号化し、それを解除するための身代金を要求するというものです。そして、支払いが遅れたらデータをすべて削除するなどと脅迫します。
――ランサムウェアといえば、2024年に起こったKADOKAWA事件が記憶に新しいです。
高野:KADOKAWA事件はランサムウェアの被害の最たるもので、サイバー犯罪の恐ろしさを実感させられた出来事だったといえます。KADOKAWAはこれにより、ニコニコ動画などのシステムを一から作り直す必要に迫られ、書籍の出荷が通常通りに行われるまでは約二ヶ月を要しました。2025年3月期の通期連結業績予測では、売上高の減少は約84億円とされ、莫大な損害を被ったことがわかります。なお、この事件に関しては、日本の警察の発表では北朝鮮のグループが関与していると発表しています。
――同様のサイバー犯罪は増加しているのでしょうか。
高野:この20年くらいで、フィッシング詐欺のために発信されているメールやSMSなどはずっと増えています。ランサムウェアは北朝鮮の関与が言われてますし、最近ではミャンマーなどからロマンス詐欺や投資詐欺が行われているとされていますが、いずれの犯罪も誰がやっているのか首謀者まではわからないことがほとんどです。匿名性の高いサイバー犯罪は増加傾向にあります。
――日本はこういった匿名犯罪に狙われやすいのですか。
高野:ほかの国でも同じですね。中国も振り込め詐欺がめちゃくちゃ増えていますし、中国人が中国人を騙していますから。世界中に同じ詐欺の手口が広がっているのです。ロマンス詐欺はナイジェリア発祥といわれていますが、いろんな詐欺がインターネットの発達でグローバルでやりやすくなってしまいました。
櫻井:犯罪集団は人間の心理を巧みに使っているんですよ。みんな欲があるし、儲かる話とかには乗ってくるでしょう。日本人は信用してしまう傾向が強いとは思いますが、グローバル化が進んだ今、犯罪は国がどことかは関係なく、全世界の人を狙っているといえます。ミャンマーの犯罪組織が、世界中からかけ子を集めていることからもわかりますね。


















