年金生活者からパパ活女子まで、お金がいくらあれば「幸せ」? 原田ひ香に聞く、多様な『月収』のリアル


それぞれの月収に見合う生活を送る6人――「月収4万円の66歳」「月収8万円の31歳」「月10万円投資の29歳」「月収100万円の26歳」「月収300万円の52歳」「月収17万円の22歳」の6編からお金・家・生活・幸せのあり方が見えてくる物語だ。
なぜ「月収」をテーマに? また、それぞれのリアルな設定・人物像の作られ方や、「お金の小説」を書き続ける理由などを原田ひ香さんに聞いた。
年金は月10万円以下という方が半数

原田ひ香(以下 原田):最初は『婦人公論』さんの1年間の連載だったんですが、『三千円の使いかた』(中央公論新社)でお金の話も書いてきて、『三千円~』の読者の方達と重なる部分も多いと思うので、お金のことを何か書こうと思い、「月収はどうですか」と提案させてもらったんですね。「年収300万円の生き方」みたいな感じで、年収本はたくさんありますが、月収もAmazonなどで検索すると、「月収15万~」「月収20万でできる~」みたいな切り口で、ファイナンシャルプランナーさんが書いた本などがたくさん出てくるんです。それで、月収が大きなトピックとして良いんじゃないかと。月収は月に入ってくるお金なので、どうしても会社員の方が毎月もらうお金というイメージが強いですが、今回は年金なども含めています。
――6人の設定が絶妙ですね。最初に登場するのは月収4万円の年金暮らしの女性。不貞をしていた夫に離婚を切り出され、家を譲って自分は貯蓄と年金4万円だけで暮らすという世知辛い設定です。そもそも高齢者の年金暮らしを豊かだと思い込んでいる人もいますが、年金暮らしの大変さが身に沁みました。
原田:実際、年金は月10万円以下という方が半数です。なかにはご夫婦で20万円などもらっている方もいらっしゃいますが、月4万円という方はリアルにいらっしゃいます。それに、年金プラス月に4万円ぐらい稼げたら~みたいな本や、年金暮らしをしながら仕事をどう探すかといった本もたくさんあって。その一方で、年金20万あっても、家にずっといるのはつまらないという方もいらっしゃるので、年金生活になっても外に働きに行けると良いんじゃないかという思いで設定しました。
――収入の有無にかかわらず、中高年の単身女性は家が借りられないという問題もよく聞きます。300万円400万円で家が買えるなら、借りるより買ってしまうほうが良いというのも発見でした。
原田:実際、生活保護世帯に貸し出している不動産屋さんに家を見せてもらったところ、当時300万円台でもいろいろあったんです。埼玉や千葉なら比較的都会だし、お店などもちゃんとある場所でも意外とそのぐらいの金額で買えるんです。コロナ以降は金額もちょっと変わっているかもしれませんが。
――主人公は夫の希望で専業主婦をしてきたために、職歴もスキルもなく、社会に放り出されましたが、それでもお金を稼ぐ手段を得られることに希望を感じました。
原田:第1話を書く上で、作業所も設けている台東区のシルバーセンターでに取材させていただいたんです。その中で、お金が足りないという方はやっぱりシルバーセンターよりもハローワークに行くほうが良いということ、生きがいやお友達作りを求める方のほうがシルバー人材センターには向いているとお聞きしました。実際、高齢者が仕事を持つのは簡単ではなく、特に事務的な仕事はないんですね。外で働くというと、駅前の自転車置場などもありますが、あれも実は狭き門で、女性の場合、一番多いのは家事代行や家政婦さんだそうです。
――第2話は専業作家を目指して不動産投資を始める月収8万円31歳。不動産投資というと、お金持ちでないとできないイメージがありました。
原田:不動産屋さんの取材で生活保護の方のお話を聞かせてもらった時に、400万~500万円で買った家を月々4万~5万円で貸せるから、それを3軒ぐらい持ったらもう仕事しなくて良くなりますよと不動産屋さんに言われたんです。そんな世界があるんだと私もびっくりして。そのときから小説家などをやりながら家を買い、ちょっとした収入がある人の話を書こうと考えていたんですが、月収8万円だと年間100万円以下で健康保険や税金もなく、ほぼ働かなくていい非課税世帯になると気づいたんです。月収8万以下に抑える生き方などもYouTubeなどにありますし、1つのパターンとして良いかなと思いました。
――第3話は、月10万で投資する29歳。一生懸命仕事をしてそれなりにキャリアも積んでいるのに、親がその仕事を認めてくれないというのもよくあるケースだと思いました。
原田:第3話は新NISAの登場で、上限1800万円まで投資枠に入れられて、税金がかからない中、3000万ぐらいになると月々10万円を下ろしても減らないという話があって、ちょっと目線を変えて、こんなことも可能かもしれないよと提示しました。珍しく未来である2037年の話も出てきます。
――小説の中では2037年も新NISAによってうまくいっていますが……。
原田:今年に入ってからトランプ政権下で株価がこんなに上下すると思わなかったし、円安になっているし、本当に何があるかわからないなとは思ったんですけど、どういう人が新NISAに必死になってお金を入れるだろうと考え、ある種家族に恵まれない人という設定にしました。