オカモトショウ、宗教ビジネスを描く漫画『るなしい』に感じた人間の業 「リアルなんだけど、一線を越えた先も描いている」

オカモトショウ『るなしい』に感じる人の業

 ロックバンドOKAMOTO’Sのボーカル、そして、ソロアーティストとしても活躍するオカモトショウが、名作マンガや注目作品をご紹介する「月刊オカモトショウ」。今回は、宗教ビジネスをテーマにした異色の作品『るなしい』(意志強ナツ子)を取り上げます!

『るなしい』(意志強ナツ子/講談社)

『住みにごり』や『血の轍』に近い“ドロッとした秀作"のライン

――今回ショウさんが選んだのおすすめマンガは、『るなしい』。宗教ビジネスを題材にした作品ですね。

 マンガ雑誌ではなくて、「小説現代」で連載されているんですよ。人に勧められて知ったんですけど、単行本の表紙とタイトルで「ちょっと怖いな」と思ってました。読み始めたのは3巻が出てからなんですけど、めっちゃ面白くてハマりました。新興宗教ビジネスがテーマなんですけど、表面的な刺激だけが強いマンガではなく、ちゃんと芯があって。ダークさとポップさのバランスもいいし、読んでいくうちに自分事として感じられるリアルさがあるんですよね。ジャンルは違いますけど、自分のなかでは『住みにごり』(たかたけし)、『血の轍』(押見修造)のような“ドロッとした秀作”のラインにあるマンガです。

――主人公は「火神の子」として宗教ビジネスに励む女性“るな”。物語は高校時代から始まりますが、生理のときの血を混ぜたモグサを売っていたり、気味悪がられてイジめられています。

 火神の生贄として生きてるんですよね、るなは。セックスも恋も禁止されて、そのあたりのアイドルよりもストイックな生活を強いられて。表向きは鍼灸院なんだけど、じつは宗教で、信者さんに施術したり、預言を与えるという意味ではキリストに近い役割なのかなと。同級生の石川スバルとケンショーという男子ふたりも主人公並みに重要なんですよ。

――るなはケンショーに恋をしてしまい、そのことをきっかけに信者ビジネスの客に引き込もうとする。さらに、るな、ケンショー、スバルが、学生相手のビジネスをはじめて「誰がいちばん儲けるか」という競争をはじめるというのが前半のストーリーです。

 ケンショーは女生徒の相談に乗ってお金を集めるんですが、(ケンショーと話したい生徒同士の競争心を煽って)その値段が上がっていくんですよね。ライトなホストみたいなものですけど、「そういうこともありそうだな」というリアリティがあって。るなの宗教ビジネスもそうですけど、人ってやっぱり弱いところがあるから、何か信じられるものがないとつらいわけじゃないですか。“信じられるもの”を買える状態で提供して、そこに喜んでお金を払う人がいるというのは、頭では理解できますよね。その人が働いて得た対価で、日々をもうちょっと幸せに過ごせる何かを買うわけだから、めちゃくちゃリアルだと思う。「自分もそうなってもおかしくないな」と。

――スバルは「るなのことを小説にする」とるなに持ち掛け、彼女からお金を受け取ります。

 その小説をケンショーが読んでしまうシーンがあって。その小説には、詐欺とは言わないまでも、入信させるための方法が書かれているんですよ。ケンショーはダマされたと思ってもいいはずなんだけど、そうはならない。るなも「手の内を明かして“だまされた”と思われるようなものを提供していない」みたいなことを言うんですよね。だって、実際にその人のことを良くしてあげてるんだからって。るなはそこまで徹底的に考えて信者ビジネスをやって、必要とされるものを提供している。受け取る側も本気でそれを求めているですよね。そのあたりまでは「わかるかも」という感じなんですけど、『るなしい』がすごいのは、一線を越えた先というか「え、それはわかんない」ってゾクッとすることも描いているんです。るなの前で土下座して「何でもやります」という信者もそうだし、ケンショーがお金を受け取って話している女の子たちの行動がエスカレートしていったり。ケンショーが他の女の子とキスしているところを見た子が「今のって、お金は発生しているの?」って問い詰める場面があるんですけど、「そこに怒るんだ?」っていう。いつの間にか一線を越えてしまうのが、こういうビジネスの怖さなんだなと。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「連載」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる