オカモトショウが語る、野球マンガ『ダイヤモンドの功罪』の斬新さ 生々しく描かれる”天才の苦悩”とは

オカモトショウが語る『ダイヤモンドの功罪』

 ロックバンドOKAMOTO’Sのボーカル、そして、ソロアーティストとしても活躍するオカモトショウが、名作マンガや注目作品をご紹介する「月刊オカモトショウ」。今回取り上げるのは、週刊ヤングジャンプで連載中の『ダイヤモンドの功罪』(平井大橋)。圧倒的な野球の才能を持った小学生・綾瀬川次郎の“天才ゆえの苦悩”にフォーカスした異色の野球マンガだ。

異世界転生作品の“主人公無双”とは対照的な苦悩

——今回紹介していただくのは、『ダイヤモンドの功罪』。昨年、ヤングジャンプで連載がスタートし、大きな注目を集めている野球マンガです。

 連載が始まったときから読んでいるんですけど、すごく面白いですね。天才野球少年が、その才能ゆえに傷つきながら成長してくストーリーで、とにかく主人公(小学生の綾瀬川次郎)が優しいヤツなんですよ。体格にも恵まれていて、身体能力もすごいんだけど、競争心みたいなものがあまりなくて。自分が勝つことよりも周りの友達のことが気になってしまうんですよね。もちろん野球マンガだから試合のシーンもあるんだけど、あくまでも“天才ゆえの葛藤”みたいなところにフォーカスされているんです。絵的な派手さはないけど、野球を題材にしたマンガとしては斬新だなと思って。こういう作品が読者に受け入れられているのはちょっと意外だったし、すごくいいなと。

——『ダイヤモンドの功罪』の主人公・綾瀬川次郎は、水泳、テニスでも才能を示していましたが、あまりにも才能があるので、同じ年ごろの競技者にショックを与えたることが続いていた。そのときに少年野球チームのチラシを見て、“楽しそう”と思い、野球を始めるというのが導入部分です。

 ほとんど野球をやったことがなかったのに、ピッチングもバッティングも最初から圧倒的にすごくて。才能がありすぎて、“みんなと楽しく野球をやりたい”というところからどんどん離れてしまい、やっぱり孤独を抱えてしまうんですよね。「天才の孤独」をテーマにした作品はこれまでにもあったと思いますけど、主人公が小学生というのが面白い。努力をしなくてもすごいことができてしまうし、周りの子から見たら常識外れなところがあって。たとえば試合中にやったことでチームメイトに責められたりするんだけど、それも天才ゆえのプレイだったりして、他の子たちには理解してもらえない。

 これは自分の解釈なんですけど、“なろう系”(異世界転生もの)の場合、転生して強くなった主人公は「俺、超強え。全員ぶっ倒せる」みたいなキャラが主流じゃないですか。そういう作品の気持ちよさももちろんあるんだけど、『ダイヤモンドの功罪』は対照的に、圧倒的な能力を持っているがゆえに、誰にもわかってもらえないという苦悩を抱えてしまうという。その描き方が上手いんですよ。

——読み進めていくうちに、読者も綾瀬川くんの悩みを少しずつ理解できるようになって。

 そうそう。ただ、「共感」とは違うんですよね。それは最近の自分が好きなマンガの傾向にも共通していて。たとえば『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』(魚豊)。陰謀論者がテーマなんですけど、まともな感覚だったら絶対に信じられないような話を信じ切ってしまうのって、やっぱり理由があるんですよ。生活的な背景や自意識の問題だったりするんですけど、『ようこそ!~』を読んでると「なるほど、そういうことか」と少しずつ見えてくるというか。あとは『住みにごり』(たかたけし)もそう。

  地方都市が舞台で、久々に帰省した主人公と家族の関係を描いているんですけど、無職でひきこもりの兄貴がヤバくて、「なんでこんな行動しちゃうんだろう?」という感じなんですよ。でも、順を追って読んでいくと、その心情がわかってくるっていう。自分のなかでは『ダイヤモンドの功罪』もまさにそうで、ストーリーが進むにつれて“天才の苦悩”がちょっとずつわかってくるんですよね。あと、この作品は大人の描き方も生々しいんですよ。

——少年野球チーム「バンビーズ」の監督も綾瀬川の才能を目の当たりにして、ちょっとテンション上がってましたよね。勝手に日本代表の選考会にエントリーして。

 “天才見つけちゃった”っていう。他の指導者も綾瀬川を見て驚くんだけど、自分の息子も野球をやっていて、「嫉妬心とどう折り合いをつけるか」みたいなことも描かれていて、それがすごくリアルなんです。

——現実によく聞く話ですよね。子どもの野球チームで親同士の嫉妬やプライドがぶつかり合うという。

 そうですよね。スポーツだけではなくて、お受験もそうじゃないですか。その地域でトップを走ってる子の親が、周りの親からどんな目で見られているか……怖いです(笑)。しかも将来のことはわからないですからね。トップだと思っていても、トップ・オブ・トップの世界もあるわけで。レベルが上がったら上がったで、そこでも競争に晒される。これは『ダイヤモンドの功罪』でも描かれていますけど、周りの子たちもかなり残酷な状況に置かれるわけじゃないですか。飛びぬけて才能がある子がいれば、周りの子たちは常に比較されるだろうし、野球を続けていればその状態が中学、高校と続いていくかもしれない。お互いにつらくなるだけっていうか……もし自分がこのなかにいたら、野球を辞めますね(笑)。

——この先の展開も楽しみですが、綾瀬川くんはどうなっていくんでしょうね……。

 紆余曲折ありそうですよね。成長痛を体験したり、既にいろんな話が出てきていて。あと、ちょっとずつ綾瀬川に見合うような才能を持った子も登場してるんですよ。野球自体は上手くないんだけど、ゲームの流れや動かし方を理解している子が出てきて、「どうしてあのときにストレートを投げたの? こう思ったからじゃないの?」みたいなことをバーッと聞かれる場面があるんですよ。綾瀬川は「え、それもわかるの? 誰に言っても聞いてもらえなかったのに」って嬉しくなって。そういうことを繰り返していくんだろうなと思いますね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる