『チ。』『べらぼう』『舟を編む』NHKドラマは“出版”がキーワード? 本を通じてメディアの真価を問う意味

“戦争”よりも“文化”を描く大河ドラマ

 近年のNHKのドラマは、本を題材にした作品が目立つ。

 例えば大河ドラマでは、昨年は『源氏物語』の作者として知られる紫式部こと、まひろ(吉高由里子)が主人公の、平安時代を舞台にした『光る君へ』が放送され、今年は江戸時代を舞台に、様々な書物や浮世絵をプロデュースした江戸のメディア王として知られる蔦重こと、蔦屋重三郎(横浜流星)を主人公にした『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』が放送されている。

『光る君へ』のまひろは作家、『べらぼう』の蔦重は出版プロデューサーと、立場は違うものの、どちらも書物を世に送り出すことで社会に影響を与える様子が描かれており、戦国時代や幕末を舞台に戦争や権力闘争を描いてきた大河ドラマに新しい風を持ち込んでいる。

 こういった創作やメディアにまつわる話をNHKが作りたがるのは、自分たちの考えや問題意識をストレートに反映できるからだろう。それが悪い方向に出ると閉じた内輪ノリとなってしまうため注意が必要なのだが、創作や出版を扱った近年の作品を観ていると、紙媒体やテレビといったオールドメディアが、SNSや人工知能の普及といった急速なデジタル化が進む中で、自分たちの存在意義は何なのか? と自問自答しているように見える。

ドラマ版『舟を編む』が注目した“出版不況”

 それがもっとも強く現れていたのが、昨年NHK BSで放送され、今年の6月17日からNHK総合のドラマ10(火曜22時枠)で放送される予定の連続ドラマ『舟を編む 〜私、辞書つくります〜』だろう。

 本作は、辞書編集部を舞台にした物語で、2011年に出版された三浦しをんの小説『舟を編む』(光文社)をドラマ化したものだ。

 すでに2013年に映画化され、2016年にはフジテレビのノイタミナ枠で深夜アニメ化されている人気作だが、今回のドラマ版は2017年から物語が始まり、ファッション誌の編集部から異動してきた女性社員・岸辺みどり(池田エライザ)が主人公となっている。

 脚本は蛭田直美が担当しているのだが、原作小説のエピソードやキャラクターを引き継ぎつつも、オリジナルの要素も多数加えられており、その結果、ちゃんと2010年代後半から現在にかけての物語に仕上がっている。何より小説と違うのは、出版不況の影。電子書籍が普及する一方、紙の本の存続が危機に瀕しており、そんな中で紙の辞書を出す意味を改めて問い直す内容となっている。

 同時に本作は言葉をめぐる物語でもあり、言葉を雑に使っていたことで、周囲から誤解され、相手も自分も傷つけることが多かった主人公のみどりが辞書を読むことで、普段何気なく使っている言葉の背景にある意味や文脈を学び、成長していく姿が描かれている。

 その意味でも本作は、辞書編集部に集った編集者たちの成長物語なのだが、同時にあらゆる言葉の背後に、その言葉にまつわる物語が存在することを発見していくドラマでもあった。

 インターネットが登場してデジタル化が進んだことで生活は便利になったが、言葉や物語をめぐる状況はどんどん軽薄なものになっている。

 そんな時代だからこそ、人々はいかにして本を読み、言葉や物語を受け止めてきたのか? その起源を知りたいという思いが『光る君へ』や『べらぼう』といった大河ドラマを作る動機となっているのではないかと思う。

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