千街晶之のミステリ新旧対比書評 第6回 コーネル・ウールリッチ『ホテル探偵ストライカー』×方丈貴恵『アミュレット・ホテル』
■ホテル探偵が成功した発想の転換

だが、発想の転換によってホテル探偵のシリーズ・キャラクター化に成功したのが、方丈貴恵の『アミュレット・ホテル』(2023年、光文社)である。著者は2019年に『時空旅行者の砂時計』(創元推理文庫)で第29回鮎川哲也賞を受賞してデビューし、『名探偵に甘美なる死を』(創元推理文庫)と『アミュレット・ホテル』が、それぞれ第23回と第24回の本格ミステリ大賞の候補作に選ばれるなど、現代の本格ミステリ界を背負う実力派として活躍中である。
『時空旅行者の砂時計』に始まる「竜泉家の一族」シリーズが、それぞれ異なる特殊設定を採り入れたミステリであるのに対し、『アミュレット・ホテル』には超自然的な設定は存在しない。では、1つのホテルを舞台にした連作短篇集である『アミュレット・ホテル』が、リアルな世界観に基づいているのかといえば、そういうわけでもない。
舞台となるアミュレット・ホテルは、本館は一般客に開放されているものの、別館は会員資格を有する犯罪者のみが利用可能なのだ。客たちに課されるのは「ホテルに損害を与えない」「ホテルの敷地内で傷害・殺人事件を起こさない」という2つのルールだが、倫理観のない客が多いため、実際にはその種の犯罪もしばしば起こる。そうした(警察に知られてはまずい)事件を解決するのが、ホテル探偵として雇われている桐生である。
例えば最初のエピソードでは、ホテルの客室で強請屋が殺害される。現場は密室状態で、室内には頭を殴られて気絶した従業員がいた。他の容疑者は、詐欺師、殺し屋、窃盗グループの幹部という剣呑な顔ぶれだ。一筋縄では行かない彼らの証言の真偽を見極めて桐生は真相に辿りつくのだが、現場が密室になった理由は、犯罪者専用のホテルでなければ成立しない異常なものだった。
つまり本書における発想の転換とは、何度も事件が起きるようなホテルという舞台にリアリティがないのであれば、そのホテルを犯罪者御用達にしてしまえばいい、というものなのだ。犯罪が日常的に起こる物騒なホテルであれば、そこに勤めるホテル探偵をシリーズ・キャラクターとして何度も活躍させられるわけである。実は、このシリーズのシーズン2が光文社の雑誌《ジャーロ》に連載されており、いずれ単行本化されることは間違いない。ホテル探偵・桐生の多忙な日常はまだまだ続きそうだ。






























