手塚治虫の名作『火の鳥』今あらためて注目されるワケ 混沌とする現代にのしかかる巨匠の言葉
手塚治虫が人生をかけて取り組んだ『火の鳥』

現在、NHK総合にて、手塚治虫原作のTVアニメ『火の鳥』(監督・高橋良輔)が再放送中である(毎週水曜23時より)。また、3月7日からは東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)にて、「手塚治虫『火の鳥』展」が開催予定であり、あらためてこの、「永遠の命」を追い求める人々の冒険を描いた壮大な物語への関心が高まっている。
手塚治虫の『火の鳥』は、1950年代半ばに発表された「黎明編」から、80年代末の「太陽編」にいたるまで、『漫画少年』、『少女クラブ』、『COM』、『マンガ少年』、『野性時代』と、さまざまな版元のさまざまな雑誌で描き継がれていった、巨匠のライフワークである。
具体的にいえば、「エジプト編」、「ギリシャ編」、「ローマ編」で構成される『少女クラブ』版と、「黎明編」、「未来編」、「ヤマト編」、「宇宙編」、「鳳凰編」、「復活編」、「羽衣編」、「望郷編」、「乱世編」、「生命編」、「異形編」、「太陽編」という、「過去」と「未来」の物語が交差する長大なファンタジーが、『火の鳥』だ。
“番外編”的な位置づけの『少女クラブ』版を除き、基本的にはそれぞれの「編」は独立した物語であり、どこから読んでも構わないともいえるが、中には共通するキャラクターが登場するエピソードもあるため、これから読もうと思っている方は、できれば描かれた順に読んでいくといいだろう(また、いくつかのエピソードには、複数のヴァージョンも存在する)。
ちなみに、1989年、手塚治虫が逝去したため、「太陽編」が“『火の鳥』最後の作品”になったわけだが、同シリーズのさらなる“続き”と“終わり”については、手塚の生前、構想が明らかにされていたものもある。それによると、日中戦争(あるいは幕末から明治維新)を舞台にした「大地編」、アトムを主人公にした「アトム編」、そして、すべての物語を収束させる「現代編」などが巨匠の頭の中にはあったようだ(「大地編」は、のちに桜庭一樹により小説化された)。
円環構造の物語が描いた輪廻転生
いずれにせよ、「過去」と「未来」を交互に描き、最終的には「現代」へと到達する予定だったこの円環構造の物語で、手塚治虫が表現しようとしたのは、生と死の繰り返し――すなわち、「輪廻転生」だろう。だが、主要キャラのひとりである猿田(猿田彦)の例を挙げるまでもなく、その“繰り返される生”は、希望に満ちたものではなく、過酷きわまりないものである。
猿田だけではない。人は何度も同じ過ちを繰り返す。なぜなら人間の欲望には限りがないからだ。そして、その欲望の肥大化によって生み出される最大の愚行が、「戦争」ということになるのだろう。





















