藤子・F・不二雄版の『火の鳥 未来編』? 人類がはるか宇宙の果てを見る漫画『旅人還る』

藤子・F・不二雄版の『火の鳥 未来編』?

 NHK BSで放送されている「藤子・F・不二雄SF短編ドラマ シーズン2」も、いよいよ残り2回となった。本日5月19日に放送される『旅人還る』(初出:『週刊漫画アクション増刊』1981年3月7日号)は、藤子・F・不二雄のSF短編のなかでは、もっとも時間的に大きなスケールをもち、藤子・F・不二雄版『火の鳥 未来編』というべき趣を感じられる作品である。

 物語においては、「宇宙の果てを人類が見る」という計画のもと、帰還を前提としない宇宙への片道旅行へ旅立った男が主人公となる。少しでも遠くへと向かうために、加速は光速の99.9%に達するまで続けられ、かつ男はひとつの恒星系を過ぎるたびにコールドスリープに入る。そのため、男は生理的にはほぼ年をとらないが、旅の中では何百億年もの時間が過ぎ去ったことが示され、地球もその間に、膨張した太陽に飲み込まれて消滅したことがわかる。もともとは宇宙に強い憧れを持ち、恋人への未練を持ちながらも地球を旅立った主人公だが、途方のない旅の中で、やがて感情の起伏を覚えることもなくなっていく。そして遙か未来の果てに、宇宙にある“異変”が起きたことが了解され……。

 宇宙の旅を続ける過程で、主人公が予想もしていなかった未知の世界に出会う、という物語の枠組みから想起させられるのは、スタンリー・キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』である(じっさい、『旅人還る』に登場する、「チクバ」という宇宙船のメインコンピュータが『2001年宇宙の旅』の「HAL9000」を思わせるなど、二作の類似点は少なくない)。『2001年宇宙の旅』の場合、主人公は最終的に人類を超越した存在(スター・チャイルド)に変貌をとげ、人類の新たな可能性が切り開かれることが示唆される。では、『旅人還る』はどうか。本作の読後感もけっして暗いものではないが、主人公が最後に降り立った地点は、人類のさらなる飛躍が感じられるものか、と問われれば、いささか首をかしげざるを得ない。本作冒頭における、「この旅行そのものに意味などあったのだろうか」という主人公の述懐を、後押しするようなものにも感じてしまう。

 『2001年宇宙の旅』の前後の作品である、『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』と『時計仕掛けのオレンジ』を見るだけでも、キューブリックが未来に対して肯定一色の姿勢をとっていないことは明らかではあるし、『2001年宇宙の旅』一作をもってキューブリックの未来観が断定できるとはもちろん思ってはいない。では、藤子・F・不二雄の場合はどうか。『旅人還る』において提示される未来像は――それは結論から言えば「現在と変わらない」といったものだが――多くの作品にその同類の構図が見られるものであり、藤子・F・不二雄の未来観の核となっているように思われる。

 いや、未来観というとすこし語弊があるか。次のように言い直したほうがしっくりくる。「分岐点」と。

 どういうことか。藤子・F・不二雄の作品には、「一からやり直す/作り直す」というテーマが含まれることも多い。それは個人の選択のやりなおしという次元から、世界そのものの再生に至るまでバリエーションは多様である。前者の例としては、タイトルそのものの短編『分岐点』がまず思い浮かぶ。その内容としては、家庭生活が破綻に近づいている主人公が、現在の妻ではないべつの女性と結婚していたという多元世界に進むが、そこでも妻との仲は溝を感じさせるもののままになっているというもの。『パラレル同窓会』もまた好例だ。かつては作家になるという夢を持っていた、現在に何か満たされないものを感じている実業家の主人公は、これも多元世界の自分が一堂に会する場で「いちおう作家」である別の自分と世界を交換する。しかし、新たに目覚めた世界でもしっくりこないものを感じたらしく、その表情は多幸感とはかけ離れている。つまり、別な道を選んでいたとしても、幸福の度合いはさほど変化はなかったであろうことがこれらの作品では示唆される。

 後者の例としては、平凡なサラリーマンや中学生が、一から世界を作ろうとする『神さまごっこ』や『創世日記』があてはまる。しかし、そこで生まれる世界は、けっして現世から隔絶されたものではない。はじまりからして「旧約聖書そのもの」と言われるような、現世そっくりなものであったり、また主人公の作った世界が、実は自分たちの世界であったというメタ構造、つまりそっくりどころか同一のものであったりというものだ。

 「やり直す/作り直す」という主題は、『ドラえもん』においても、たとえば大長編第7作『のび太と鉄人兵団』に見出すことができる。そこでは、地球侵略を計画する鉄人兵団の少女・リルルが、しずかを相手に自分たちがいかに優れた存在であるか、自分たちの歴史を振り返りながら強調する。その歴史は人類に絶望した神が、オルタナティブとしてロボットに目をつけたことから始まったことも同時に説明されるが、一通り話を聞いたしずかは、次のように答える。

 「まるっきり人類の歴史を繰り返してるみたい。神さまもきっとがっかりなさったでしょうね」

 鉄人兵団の道のりがどのようなものなのかは『のび太と鉄人兵団』を参照願うとして、藤子作品では、個人の選択の次元にせよ、文明の再スタートという次元にせよ、「やり直し」によって今よりも良い結果が生まれるわけではない。行動自体は変わったとしても、終着点としてはほぼ「変わらない」地点に行きつくというだけの話なのだ。

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