『北斗の拳』のモヒカンかと思いきや……人気映画『トワイライト・ウォリアーズ』ウォン・ガウ兄貴の存在感

ウォン・ガウ兄貴は、平たく書くと「ヒャッハー系のチンピラ」である。ファッションも品がなくド派手、そしてメンタリティはほとんど『北斗の拳』のモヒカンであり、劇中でも実際終始「ヒャ〜ッハハハハハ!」みたいな感じで笑いまくっている。画面に初めて出てきた瞬間から完全に「大物ヤクザの取り巻きのチンピラ」「組織のナンバーツーっぽいけど、それにしては大物感がなさすぎる」という感じが漂っており、重鎮・若頭的な重さとは無縁。「こいつ、すぐ死ぬんだろうな……」と思っていた。
しかし映画の冒頭、サモ・ハン演じる大ボスの元から逃げたチャンを追跡するシーンから、ウォン・ガウ兄貴はただならぬ動きを見せる。チャンが逃げ込んだ二階建てバスに走って追いつき、車体に飛びついてバスに飛び込み、チャンを狙ったその拳はバスのシートを貫通したのである。あれ? ただのヒャッハー系チンピラにしては妙に強くない? 疑惑は残ったが、そのままチャンが九龍城砦の中に逃げ込んだので、この時点ではそれ以上ウォン・ガウ兄貴の異常なフィジカルは披露されなかった。
完全に流れが変わったのが、中盤のアクションシーンで見せた「硬直!」以降である。実はウォン・ガウ兄貴は気功の使い手であり、「硬直!」と叫びながら気を体内に巡らせることで刃物や打撃による攻撃が全然効かなくなる。そんなのありかよ……と思うが、あちらの武侠ものではよく見る能力らしい。ただのチンピラヤクザではなく、手練れの気功使いであったことが判明したウォン・ガウ兄貴は、この後映画全体の流れと九龍城砦を支配。元々九龍城に住んでいた面倒な連中を駆逐したのちには親分である大ボスを裏切り、自らが九龍城砦に君臨すべく暗躍、ついには物語全体のラスボスになるのである。
超かっこいいキャラクターや熱い友情、激しいアクションに九龍城砦を完全再現したセットと見どころ満点の『トワイライト・ウォリアーズ』だが、一番びっくりしたのはこの「ヒャッハー系チンピラヤクザが、ヒャッハー系のハイテンションのままラスボスになる」という展開だった。ウォン・ガウ兄貴は貫禄でいえばサモ・ハンには遠く及ばず、チャンたち九龍城砦組とちがって頼れる仲間もいない。気功でめちゃくちゃ硬くなる体ひとつと、ヒャッハー系のハイテンションで九龍城砦の天下を取ろうとしたのである。すごすぎる。こんな奴初めて見たよ。
恐ろしいのは、ウォン・ガウ兄貴は「勝負に勝てれば別に気功は使っても使わなくてもどっちでもいい」と思っているっぽいところである。気功使いならば、あくまで気功を使った格闘でケリをつけようとするもの……みたいなこだわりが、ウォン・ガウ兄貴には毛ほどもない。なんせ、最終決戦に持ち込んだ武器がAK47である。しかも2丁。気功を使って体をめちゃくちゃ硬くできるのに、アサルトライフルを腰だめで乱射しまくって主人公チームを射殺しようとするのだ。ウォン・ガウ兄貴はただ単に気功を使えるというだけあり、根っこの部分はどこまでも「勝つために手段を選ばないヒャッハー系チンピラヤクザ」なのである。なんと清々しい悪役だろうか。感動した。
終盤戦では、そんなウォン・ガウ兄貴に対して九龍城砦側の四人組がまとまって立ち向かうことになる。1対4だが、それまでの見せ方がうまいので九龍城砦四人組が和に任せた戦い方をしている印象に全くなっておらず、むしろ「こんな奴、どうやってやっつけるんだよ……」という気持ちになってくる。なんせ外からの攻撃が全然効かないため、自然と戦闘は「なんとかしてこいつの弱点を見つけろーッ!」という流れになっていき、ハラハラドキドキの展開を辿る。そういえば『トワイライト・ウォリアーズ』のソイ・チェン監督が10年前に撮った『ドラゴン×マッハ!』でも、最終戦は「強すぎる敵に対して善玉側が2人で一緒に攻撃を仕掛ける」という展開になっていた。こういうのが好きなんでしょうね、きっと。
そんなウォン・ガウ兄貴の死因は、「体内に飲み込ませた刀が原因」というものだ。外からだと硬すぎるから、内部から破壊したのである。なんだそれ。やっつけ方がほとんどデス・スターと同じ。プロトン魚雷じゃん……! こうして、史上最強のヒャッハー系、手段を選ばない戦いぶりと気功でチンピラからのしあがったウォン・ガウ兄貴は、超巨大宇宙要塞並みのタフネスを見せつけつつ、チャンたちの努力と友情の前に散ったのだった。お疲れ様でした……!
このウォン・ガウ兄貴のインパクトがすごすぎて、自分は見たあとしばらくウォン・ガウ兄貴のことしか考えられない状態になってしまった。聞くのは当然、吉川晃司の『モニカ』(劇中で兄貴が歌っていた)である。まったく根拠はないのだが、ジード団のモヒカンみたいなメンタリティのままあそこまで上り詰めた悪役は、ウォン・ガウ兄貴くらいではないだろうか。
自分は香港映画をくまなく見ているわけではないが、乏しい鑑賞経験の中でもこのタイプの悪役は見た記憶がない。「舐めてた相手が殺人マシン」を裏返したキャラクターというか、ザコっぽいキャラがザコっぽいまま気がついたらラスボスになっていたというキャラクターは、かなり斬新なものだと思う。この画期的悪役像を生み出したという点だけでも、『トワイライト・ウォリアーズ』は傑作と言えるのである。




















