『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』M.A.V.戦術のルーツはドイツ空軍にあり? 第二次大戦前に生み出された「ロッテ戦術」とは

M.A.V.戦術のルーツはドイツ空軍にあり?

 公開から三週間が経過しても話題作であり続けている『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』。本作には従来のガンダムシリーズになかった要素として、モビルスーツ戦における新戦術が設定されている。二機一組のモビルスーツで戦闘を行う、「M.A.V.(マヴ)」戦術である。

 『GQuuuuuuX』のパンフレットによれば、M.A.V.とは「ミノフスキー粒子下の有視界戦闘(モビルスーツ戦)において、二機一組で行う攻撃や戦術、またはその際に組む相方のことを指す」とある。ミノフスキー粒子によってレーダーの使用が不可能となった宇宙世紀の戦場では、肉眼や光学的な装置で最初に敵を発見して先制攻撃をかけることでアドバンテージを確保できる。しかし、一対一の戦闘で先制攻撃を避けられた場合にはこのアドバンテージは消失し、同一条件下でのモビルスーツ戦に持ち込まれてしまう。

 これを避けるため、二機一組での速攻を仕掛けるのがM.A.V.戦術の目的だ。敵を先に発見し、片方の機体の先制攻撃で戦闘をリードしつつ、敵機が攻撃に対応している間に僚機が敵機の死角からフォロー。二機からの攻撃で先制攻撃の強みを生かし切ったまま敵機を撃墜する。いち早く敵機を発見することを前提とした攻撃的で守りのことをあまり考えていない戦術だが、『GQuuuuuuX』世界ではシャアとシャリア・ブルによって考案されたものとされており、一年戦争後もモビルスーツ戦の基礎となっている。非合法のモビルスーツバトル「クランバトル」でもこの戦術は踏襲されており、劇中でもマチュとシュウジがM.A.V.となってクランバトルに参加していた。発音自体は「マブダチ」の「マブ」とほぼ同じであり、ダジャレのようなネーミングとなっている。

 このM.A.V.戦術、現実の戦闘機戦でも近いものが存在する。この点については『GQuuuuuuX』の主要スタッフも強く意識していたようで、豪華版パンフレットに収録されている鶴巻氏・庵野氏・榎戸氏の鼎談では「クランバトルは二機一組で戦うというアイデアが鶴巻監督から出る→戦闘機戦の戦術をベースに、そのルールを様式化・体系化した設定を作ったら面白いのではと榎戸氏が設定を考える→その設定の原点をシャアとシャリア・ブルの連携攻撃とする」という順番で設定が固まったことが語られている。その「現実におけるM.A.V.戦術」の原点といえるものが、第二次大戦前にドイツ空軍が生み出した「ロッテ戦術」である。

 ロッテ戦術に関する解説は多数存在するが、ここでは『[歴史群像]第2次大戦欧州戦史シリーズ Vol.1 ポーランド電撃戦』での記述を参考にしたい。この資料によれば、ロッテ戦術を体系的に理論化したのは、自身も115機撃墜という記録を持ちドイツ空軍戦闘機隊総監の地位についたエースパイロット、ヴェルナー・メルダース大佐(最終階級)とされる。メルダースがロッテ戦術をドイツ空軍の戦術として採用したのは、1938年5月に着任したスペイン内戦でのことだった。

 ロッテ戦術普及以前に戦闘機戦の基本となっていたのは、三機の飛行機を三角形型に並べて密集編隊を組む戦術だった。ドイツ空軍もこの三機編隊隊形を「ケッテ」と名付けて採用していたが、スペイン内戦に参加したメルダースは基本隊形を「ロッテ」と呼ばれる二機編隊に変更。二機の戦闘機は横方向におよそ200mの間隔を置いて、長機が僚機よりやや前に出る形の編隊を組む。二機はおのおのの正面から真後ろにかけて自機の内側方向を見張るので、ほぼ360°全周を索敵することができる。

 戦闘時、長機が攻撃を仕掛ける際には長機の上空や後方から僚機が援護にあたり、長機が攻撃を受けた場合は僚機がすかさず敵機を攻撃する。常に僚機の援護を受けられるので、長機は後方から敵機に追われる心配をせずに攻撃に集中できるのだ。さらにメルダースはこの「ロッテ」をふたつ組み合わせた編隊「シュヴァルム」での戦闘方法も編み出している。シュヴァルムでの戦闘では片方のロッテがやや前に出る形で飛び、ロッテ戦術で見られた相互の攻撃・援護の流れを二機セットで行なう。スペインでメルダースが所属した中隊には無線電話が装備された当時最新鋭の戦闘機であるメッサーシュミットBf109Cが配備されており、この無線電話が各機の連携を高めたという。

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