名作ミステリ『爆弾』映画化決定 話題のスズキタゴサクとは? 山田裕貴、伊藤沙莉らを翻弄する“謎の男”

『爆弾』スズキタゴサク役の俳優は誰になる?

■冴えない中年男・自称「スズキタゴサク」

 2015年に『道徳の時間』で第61回江戸川乱歩賞を受賞しデビューして以降、『白い衝動』、『雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール』、『スワン』、『おれたちの歌をうたえ』等々のユニークで読み応え充分のミステリ小説を発表してきた呉勝浩。彼の作品中、『このミステリーがすごい!』国内部門で年間1位を獲得するなど、最も話題を呼んだのが2022年刊行の長篇『爆弾』だった。

 この小説は、微罪で逮捕され警視庁野方警察署に連行された冴えない中年男、自称「スズキタゴサク」が、「十時ぴったり、秋葉原のほうで、きっと何かありますよ」と予告し、その通りに爆発事件が起きたことから開幕する。次の事件の発生を仄めかす彼に真実を吐かせるべく、さまざまなタイプの警察官が入れ替わり立ち替わり取り調べを担当するが、スズキは質問をのらりくらりとかわすばかりか、膨大な言葉の奔流で警察官たちの拠って立つ正義に揺さぶりをかける。物語の大部分は取調室の中で繰り広げられ、そこで凄まじい心理戦の火花が散るのだ。

 その『爆弾』が、2025年、映画化される——という情報が1月21日に公表された。それ自体は驚くべきことではない。私自身、『爆弾』を読んだ時に「これは必ず映画化されるだろう」と確信していたからだ。

 驚いたのは、どうやらスズキタゴサクが主役ではないらしい点だ。発表された情報によると、主演の山田裕貴は警視庁捜査一課特殊犯係の交渉人・類家を演じるという。

 その前にスタッフについては、今のところ監督が永井聡であることしか発表されていない。永井の過去の監督作品から『爆弾』がどんな映画に仕上がるかを類推するなら、注目すべきは『帝一の國』と『キャラクター』だろう。前者は、エリート生徒たちがしのぎを削る超名門男子校に入学した野心家の主人公が、生徒会長にのし上がるべく策謀を練る物語だった。後者は、漫画家を夢見る青年が、ある殺人鬼の凶行に巻き込まれてゆくサイコ・サスペンス映画。いずれも、丁々発止の駆け引きが繰り広げられるスリリングな内容であり、その意味で永井は『爆弾』の監督として適任と言えよう。

■発表された期待のキャスティング

 キャスティングに話を戻すと、今回の主演の山田裕貴は、映画『HiGH&LOW』シリーズの鬼邪高校初代番長・村山良樹、NHK大河ドラマ『どうする家康』の猛将・本多忠勝といった「動」の役柄で高い身体能力を示す一方、ドラマ『ここは今から倫理です。』(NHK総合)の淡々と倫理を説く教師のような「静」の役柄でも演技力を発揮している。警察官役としては、ドラマ『特捜9』(テレビ朝日系)の新藤刑事、ドラマ『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』(日本テレビ系)の山田刑事などが思い浮かぶ。

  そうした役柄が「陽」の山田裕貴だとすれば、ドラマ『ホームルーム』(MBS・TBS系)のあぶないストーカー教師役などは「陰」の山田裕貴と言える。浮世離れした変人で倫理的に些か危ういところもあり、ある意味、警察官たちの中でスズキに最も近い存在として描かれている類家を山田裕貴がどのように演じるか、楽しみでならない。

 現時点で配役が発表されているのはほかに、野方警察署交番勤務の倖田沙良役の伊藤沙莉、野方警察署の窓際刑事・等々力功役の染谷将太、類家の上司にあたる清宮輝次役の渡部篤郎の3人である。

  伊藤沙莉といえば、昨年のNHK朝ドラ『虎に翼』の主人公・猪爪(佐田)寅子が記憶に新しい。ドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系)のお調子者ながら時に正論を熱く主張する会社員など、組織内において女性の不自由な立場を訴える役柄で鮮烈な印象を残す。警察官役としては、『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)シリーズの風呂光聖子刑事で知られる。倖田は交番勤務という立場もあって、『爆弾』という物語の中では最も取調室外での動きが多い人物である。

  男性優位の警察組織に内心で不満を抱きつつも、先輩や本庁の刑事についへらへらした態度を取ってしまいがちで、近年は大事件と縁がなかった野方警察署の少々のんびりした空気に適応していたが、スズキタゴサクの事件に関わったことでやる気を出し、中盤からは相棒の身にある出来事が起こったのをきっかけにスズキへの激しい怒りに駆られることになる。そんな倖田を演じることになった伊藤沙莉は、原作のイメージに最も近いキャスティングではないだろうか。

 今回、最も意外と感じたキャスティングは等々力功役の染谷将太だった。原作の等々力はもう少し年配者のイメージがあったからだが(原作を読み返してみたけれども、何歳かは不明ながら、少なくとも類家より年上なのは間違いない)、もともとは仕事熱心な刑事だったのに4年前のある出来事を機に窓際に追いやられてやる気をなくし、スズキタゴサクとの邂逅によって自分の中の危うい部分に気づかされる等々力は、かなり多面的な演技を要求される役柄だ。子役時代からの長い芸歴の中で、映画『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』の心が壊れた少年、映画『悪の教典』の頭脳明晰だが素行に問題ありの高校生、ドラマ『風間公親-教場0-』(フジテレビ系)のトラウマのせいで感情をコントロールできない刑事など、厭世的で斜に構えた役柄が多かった染谷将太ならば、等々力という人物の複雑さを表現できるに違いない。

 清宮輝次は高度な知性を持つ交渉人であり、まるでパズルのピースをはめるようにスズキタゴサクの人物像に迫ってゆく。演じる渡部篤郎は、最近ではドラマ『ノッキンオン・ロックドドア』(テレビ朝日系)で探偵である主人公2人の恩師で、彼らよりも優れた推理力を持つ天川教授を、短い出番ながら圧倒的存在感で演じていたのが印象的だった。一方で、『ケイゾク』(TBS系)シリーズの真山徹や、『外事警察』(NHK総合)シリーズの「公安の魔物」住本健司のような陰のある警察官役も忘れ難い。スズキの挑発によって冷静沈着で紳士的な表向きの言動を突き崩されてゆく清宮を、渡部篤郎がどう演じるか大いに期待が持てる。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる