町田康が教える「おもろい」文章の書き方 格闘技的文章とプロレス的文章の違いとは?

この格闘技的文章の対となるのが、プロレス的文章だ。ヒーローがただ勝つのではなく、悪者の汚いやり口によって途中ピンチに陥り、観る側をハラハラドキドキさせる。そんなプロレスのように、結末まで一直線ではなく迂回しながら筋道を読ませることで、プロレス的文章は盛り上がりを生みだす。ただし使いすぎると、わざとらしすぎて読み手は白けてしまう。そこで按配を調節するための「いけず」「間引き」「がちゃこ」といった技法に関する著者の解説は、いかに試合(文章)を構築して観客(読者)を惹きつけるかを説いた、プロレス論としても秀逸である。
作家が文章を教えることの高尚そうなイメージから随分と遠い内容の本書だが、その敷居の低さも魅力の一つといえる。本編で堅苦しい・仰々しい言葉は皆無。いい文章を書くための理屈をできるだけかみ砕いて説明するか、自分のダメな部分をさらけ出すか愚痴るか、たまに〈〽︎はあああああああっ、会津ヘンタイ山は宝の山よ〉と大声で歌いだしたりするかである。〈昭和三七年大阪府堺市生まれ。高校卒業後、歌手を経て、平成八年小説に転じ現在に至る〉という著書や受賞歴の記載もない著者プロフィール欄の簡素さも相まって、何をしているのかよくわからない親戚もしくは近所の面白いおっちゃんの話を聞くといったような、気やすい感じが漂っている。
そこには本書の後半で重要なテーマとなる、己の内面を直視して心の錦=モチーフを見つけるために必要な、書き手の「姿勢」が隠されてもいる。さらには、それが雰囲気以外の部分にもどのように作用しているか、何度も読み返すことで鮮明となっていく再読の醍醐味もある。〈そんな閑人の真似はしておられぬ〉なんて戯言は、著者の奥義「読み書き表裏一体姿勢」を、一読でマスターできてから言ってくれ。























