偽装結婚、カサンドラ症候群、アセクシュアル……さまざまな「繋がり」を描く小説『恋じゃなくても』著者・橘ももインタビュー

橘もも『恋じゃなくても』インタビュー

世間一般でよく言われる「恋」のイメージとは違ってもよいはず

橘もも

――『恋じゃなくても』はこれまでの橘さんの小説とは文体も少し違う印象を受けました。

橘:書き始めた時から文体がいつもと違うなと自分でも思っていました。小説を最初に読んでくれる友達も、いつもより大人っぽいねと言ってくれて、こういう文章も書けるというのが発見でしたね。意図して変えたわけではないけど、物語の雰囲気に沿って書くと自然とテンポがゆったりして、しっとりした文体になりました。

――小説には繕という和菓子職人と、彼が作る魅力的な和菓子がたくさん登場します

橘:私のはとこ(祖父母同士が兄妹)が、和菓子をつくる人なんです。繕と同じで、お店に所属していなくて、今は活動も休止しているんですけれど、彼女が作る和菓子がとても綺麗で美味しくて、和菓子に対する興味が募っていきました。いつかコラボしたいねと話していたので、物語に彼女のつくる和菓子を組み込めたのはうれしかったのですが、担当さんがぜひカバーに彼女の和菓子を使いたいと言ってくれたのが、いちばん嬉しかったです。

橘もも『恋じゃなくても』
――思わず手に取りたくなる美しいカバーに仕上がっていますね。繕も個人的に印象深いキャラクターでした。

橘:繕が好意を寄せているのは、やっぱり一般の基準から外れた人ですが、その着想を友人に話したとき、あんまりいい感じに受け止めてもらえなかったんですよね。どうやらそこに性欲が発生すると想像するのがいやだったみたいなのですが、恋をする=性欲という発想になることに、私はけっこう驚いてしまって。よく考えれば、大人の恋愛ってそういうものだと思うのですが……そこから、人を好きになるってどういうことなんだろう?という本作の根幹について、改めて考え始めた気がします。凪は誰かに「恋をする」という感情が分からない人物ですが、それでも他人を大事にすることができるし、中には「特別」な人もできていく。他者への好意が、世間一般でよく言われる「恋」のイメージとは違ってもよいはずだという気持ちは、繕を入れたことでより強まった感じはありました。

――家族ものという要素も個人的に心に響きました。毒親やヤングケアラーなどのように家族に問題があるわけではなく、皆いい人たちなのに、それでも自分はそことは感覚が合わずに孤独を感じるという描写に思わず共感してしまいました。

橘:一般的に家族は一体であった方がいいと思われているし、家族の中に寂しさを感じている人がいるのは不健全だと捉えられることが多いですよね。ですがそれぞれの価値観が微妙にずれることはどうしようもないし、そこから生まれる寂しさが悪いことだと私は思っていません。寂しさを埋める相手を家族の外で見つけることができれば、逆に家族と上手くやれるようになることもあると思います。

――本作は橘さん初の単行本です。どんな人に届けたいですか?

橘:女性の視点が強いので、男性が読んでどう感じるか不安なところはあるのですが、これまで書いてきた小説の中で一番間口が広いものになったなと感じているので、幅広く読んでいただけたら嬉しいですね。なんとなく生きづらさを感じていたり、なんで自分は上手くやれないのだろうと思っている人、自分の正しさに囚われて辛くなっている人……人それぞれしんどさはあると思いますが、読んで少しでもほっとしてもらえたらいいなと思っています。

■書誌情報
『恋じゃなくても』
著者:橘もも
価格:1870円
発売日:12月18日
出版社:双葉社

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