「2024年ライトノベルBEST10」書評家・タニグチリウイチ編 1位はゾンビ化した社会を描く本格SFに

「2024年ラノベBEST」書評家・タニグチリウイチ編

「スワンプマン」という哲学の思考実験を題材に、人間の意識の連続性と自分というものの客観性が問われるような物語を作り上げたのが小林達也『スワンプマン 芦屋沼雄(暫定)の選択』(MF文庫J)。ある装置によって意識をいったん殺され、まったく同じ記憶を持った意識を植え付けられた場合にその人間は同一人物か否かといった問題を軸に、主人公の少年が本当にその装置にかけられたのかを推理するミステリ的な要素があり、吸血鬼など人外の存在が暮らしている現実とは違った社会の提示があり、そこでスワンプマンも含めた人ならぬ存在の権利を認めるべきかといった思索もあってと、多方面から楽しめる。

 「マージナル・オペレーション」シリーズの芝村裕吏による『英雄その後のセカンドライフ』(KADOKAWA)は、海軍の提督として数々の戦歴をあげた英雄シレンツィオが貴族に叙せられることになり、いったん隣国の士官学校で学ぶことになったものの、案内されたのはエルフたちが通う幼年学校。長命のエルフからみれば提督でも子供みたいなものなのか? そう思ったのか訝らず子供といっしょに授業を受けながら、料理を作って皆に振る舞い慕われていく様子が微笑ましい。それでいて政治や経済の諸相が展開に反映されるリアルさもある。さすがは芝村裕吏といったシリーズだ。

 文月蒼『水槽世界』とともに、飛鳥新社の新レーベル「with stories」の1冊として刊行された高橋びすい『ハジマリノウタ。』(with stories)は、高校が舞台の音楽物。学校で1番の秀才だが歌が下手な少年と、落ちこぼれで陰キャだが歌は抜群に巧い少女が組んで学園祭のステージを目指すという努力と成長のストーリーに、音大行きを諦めかけている先輩へのエールというドラマもあって感動できる。アニメや漫画でバンド物が人気のジャンルにライトノベルで挑戦した1冊。新興ゆえに埋もれがちなレーベルだけに、店頭で見かけたら要チェックだ。

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