「ライバルはムー?」バイク雑誌の顔した“サブカル旅本” 『モトツーリング』神田英俊編集長に聞く編集論

■デジタル全盛のなか、雑誌の強みはどこにある

神田編集長は、正しい情報をしっかりと取材し適切な形で届ける。すぐに修正することができない紙ならではの責任感を人一倍持つ。

――ネットメディアもある中で、雑誌ならではの強みはどう考えているのでしょうか。

神田:100年経っても変わらないことを言うと、雑誌は非常に素晴らしいガジェットだということです。何しろ電源がいらないガジェットですから、どんな状況下でも見ることができるわけでしょう。また、紙の強みは信用度の高さです。100%ではありませんが、個人のWEBコンテンツとチームプレイで組織的に制作する雑誌を比較すると、取材力や組織的バックボーンの影響で紙メディアの信憑性が高いケースも多い場合があります。発刊上の責任もありますしね。正しい情報を綿密に取材し、適切な形で届けるという面ではこの雑誌の強みは未だ健在なんじゃないかと思います。

――神田さんの紙に対する情熱を感じますね。

神田:紙は好きですし、紙じゃないとできないことを常に模索していますよ。かといってWEBメディアを否定するわけではなく、むしろウェルカム。お互いの良いところを伸ばして、お互いに高め合えるようなことができればいいと思います。

――まさに理想的な関係ですね。

神田:それに、ネットの検索機能もまだまだ不完全なのです。上位にあがってくるものはAIで抽出していると思うのですが、例えば「東京」「美味しいラーメン」などで検索すると、割といい加減な情報が出てくるじゃないですか(笑)。ましてや、かなり突っ込んだ「クラッチ・オートバイ」「分解方法」などで検索すると、とたんにとんでもない情報が出てくる。他人が書いた記事を丸パクリしているミラーサイトもたくさんあります。

――お話いただいたことは、未だにネットが抱えている問題です。

神田:そして、ネットで検索しても出てこないようなオリジナリティのあるネタを考え、構築していくことも求められると思います。ちなみに、弊誌が勝手に道路の名前を付けたりすると、何かのメディアにその名前で出たりするんですよね(笑)。

■今後も編集方針を変えることはない

レトロ自販機を探訪するコラム企画。モトツーリング編集部員ではない内外出版社の社員が取材・編集した誌面。このような雑多な部分が面白さであるという、雑誌の熱量溢れる究極形が垣間見られる。

――マニアックな名所を、オートバイで旅行する醍醐味はどんな点にあるのでしょうか。

神田:オートバイは他の交通手段と比べて、移動そのものがアミューズメントになる乗り物です。オートバイで体感できる最たるものは、気温や湿度でしょう。標高が高くなっていくと気温が下がり、峠を下るとどんどん熱くなっていく、これはクルマで移動していては味わえないと思います。

――おっしゃる通りですね。

神田:そして、ライダーはオートバイに乗っている自分に酔っているわけですよ。ミラーに映っている自分をかっこいいと思っている(笑)。だから乗っていること自体が喜びだし、すれ違うライダー同士であいさつする文化もあったりして、全世代を通じて非日常感を味わえる乗り物だと思います。

――今まで作った特集で、特に印象に残っているものはなんですか。

神田:巻頭特集はすべて自信作です。なかでも反響が大きかったのは、先ほどお話した諏訪の特集でしょうか。長野県の辰野町には大きな断層があるのですが、この地で、諏訪を統治していた守矢氏と、出雲大社の大黒主命の息子であるタケミナカタとの大戦争があったという説をまとめたのです。この地には戦の痕跡が神社跡として残されており、さらに現在は辰野市街となっている場所にあった古辰野湖と大きな関係があったのではないかという内容です。現実とファンタジーを織り交ぜた構成が良かったのか、とある学会内でで発表される学術論文に、記事と画像を引用したいと言われたほどです。

取材場所では丹念に地図を調べると話す神田編集長。それはまるで考古学者が謎解きをするかの如く「if」の部分も大事しているからこそ、webでは手に入らないような情報が掲載さている。

――反響の大きい記事を生み出せるのは、創刊の頃から編集方針がぶれないことも大きいと思います。

神田:そうですね。だから、今後も編集方針を変えることはありません。もしかすると、オートバイのみではなく他のモビリティも含めた内容となる可能性もあるかもしれませんが、旅のサブカル本としての位置づけは絶対に変わる事はありません。移動手段は、時世に合わせてフレキシブルに考えても良いのかなと思います。

■オートバイに乗らない人にも読んで欲しい

――キャッチーな表紙やコピーからも、神田さんの編集者としてのこだわりを感じます。

UFOが飛んでいる、バイク雑誌。こんな雑誌は他にはない。とにかく中面は、徹頭徹尾、本気の面白さが詰まっている。

神田:表紙を見たときに、特集の内容が1秒以内にわかるように心がけています。これを見せたいというポイントを、読者にわかりやすく届けたい。あと、有名なスポットでも位置を変えて写真を撮ったら、まったく別の風景が見えたりしますよね。王道でも見方が変わると面白いということを、現地に赴いているからこそ誌面で伝えたいと思っています。ちなみに、絶景特集を組んだとき、現地に行ってみたら絶景よりも人の多さが気になった場所があって、「その絶景、本当に絶景?」という記事を作ったこともあります(笑)。

――読者にとって役立つ本質的な情報ですね。

神田:あとは、自分が買いたくなる雑誌をつくる、というのが一番ですね。読みたくなるではなく、買いたくなる本です。あとは、それほど大層な題目は考えていないんですよね。

――神田さんの個性が爆発している「モト ツーリング」は、むしろオートバイに乗っていない人にこそ手に取ってもらいたいですね。

神田:そうですね。僕も、オートバイに乗らない人にもっと読んでほしいと思います(笑)。僕がこの雑誌で伝えたいことは、日本にはまだまだミステリーや謎がたくさんあるということ。雑誌はぶっちゃけ買わなくていいので、まずは書店で手に取っていただき、立ち読みして、こういう世界もあるということを知っていただければありがたいです。そして何か刺さるポイントがあったら、そのままレジに持っていってくれたら嬉しいですね。

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