アニメ化で話題沸騰『負けヒロインが多すぎる!』の面白さとは? セオリーを覆す異色のラブコメを読み解く

『負けヒロインが多すぎる!』 レビュー

 当の温水自身が、そうした自分への視線にまるで気づかない朴念仁である点も、自分から行動して失敗したくない昨今の気質を現しているようで同感できる。妹の佳樹にもしかしたら彼氏ができたかもしれないと思い込んで行動する割に、佳樹の本心に気づけないのか気づかないようにしているのか分からないが、ストレートに確かめようとしないところも笑いを誘いつつ、そういう羨ましい立場に自分も立ってみたいと読者を思わせる。

 “負けヒロイン”と究極の朴念仁という、ラブコメの当たり前を外した設定の巧妙な組み合わせによって生み出される、苦笑と感涙が渦巻く世界が、『負けヒロインが多すぎる!』を数多あるラブコメ作品の中でも異色で突出した存在にしていると言えそうだ。

 舞台の独自性も、この作品の大きな魅力だ。TVアニメの第1話のラストで、八奈見がポケットからいきなりちくわを取り出してかじる。なぜちくわ? 理由はこの作品が、愛知県豊橋市を舞台にしているからだ。愛知県民なら「昔も今も変わらぬ旨さ、豊橋名産ヤマサのちくわ」というキャッチフレーズを誰でも知っている。八奈見がかじったのもヤマサのちくわで、食いしん坊のヒロインであるという情報とともに、舞台が実在する場所だと分からせた。

 原作にはちくわは登場しないが、温水たちが通っているツワブキ高校が豊橋鉄道渥美線に実在する愛大前駅のそばにあることが書かれていて、豊橋でも名門の時習館高校がモデルになっていることが分かる。アニメでは時習館高校がそのままの雰囲気で登場する。第3話「戦う前から負けている」で温水や八奈見ら文芸部員たちが訪れたビーチも、田原市に白谷海水浴場として実在しており、原作にもそのまま書かれている。原作にはほかにも豊橋や西三河の各地が登場しており、読んだら確かめに行きたくなる。

 アニメにはまだ出ていないが、原作では佳樹の友だちの権堂アサミが、東三河に特徴的な「じゃん」「だら」「りん」という語尾を付けて話して、方言ヒロインとしての存在感を見せてくれる。ゴンちゃんもまた"負けヒロイン“の列に連なることになるが、どういったシチュエーションかは読んで確かめよう。

 ほかにも焼塩が好意を抱いていた綾野光希を奪い"勝ちヒロイン”となった朝雲千早が、なかなかにユニークな性格でちょっとした騒動を引き越すエピソードがあり、文芸部の先輩の眼鏡女子、月之木古都が文学的に”腐った”小説を書いて生徒会からにらまれるエピソードもあってと、ドタバタとした学園ストーリーを楽しめる。

 最新の『負けヒロインが多すぎる!7』(ガガガ文庫)には、入学早々に問題を起こして停学になった白玉リコという少女が絡んでさらなる騒動を引き起こす。もちろん彼女も"負けヒロイン”。その負けっぷりを観察しつつ味わいながら、爆心地に立つ温水自身はいつか"勝ちヒーロー”になるのか、相手はいったい誰なのかを想像するのも面白そうだ。

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