連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2024年4月のベスト国内ミステリ小説

2024年4月のベスト国内ミステリ小説

酒井貞道の一冊:穂波了『忍鳥摩季の紳士的な推理』(双葉社)

 超常現象を扱ったいわゆる特殊ルール・ミステリの連作だ。主人公の忍鳥摩季は快活な若い女性で、「先生」と呼ばれるダンディーな中年男性——ミステリ読者ならどういう人物かすぐ想像できるが、そこで油断してはいけない——と共に行動している。ワープホール、時間停止、行動操作、タイムループとタイプ違いの現象を題材に、それぞれ見事な謎・論理・真相を用意する。毎回「なるほどそう来たか」と唸る。最終話の余韻も素晴らしい。唯一の不満は、摩季と「先生」の活躍を僅か四話しか楽しめないこと。続篇を期待したいけれど難しいかな。

藤田香織の一冊:浅沢英『贋品』(徳間書店)

 月村了衛『対決』が良かった! 天祢涼『あなたの大事な人に殺人の過去があったらどうしますか』がエグかった! と思いつつ、東大阪の新興宗教施設にある盗品のピカソをちょっと拝借して贋作を作る、という雑な発注なのに極めて繊細かつ厄介な展開が楽しかった本作に。

 元画家の山井がゴルフ場で一緒に球拾いをしている教団事務局の女性から聞き及んできた胡散臭いことこの上ない話に巻き込まれていく仲間たち。出来上がったチームは4人。完成し売り抜けられればひとり10億以上になる。文字通り人生を賭けた大勝負! ぜひ騙されたと思って読まれたい。

杉江松恋の一冊:澤村伊智『斬首の森』(光文社)

 うっかりブラック企業の合宿に参加してしまった男女がリンチで殺された犠牲者の死体を埋めさせられ、これはヤバいと脱走する。それ、どんなオウム真理教だよ、もう企業ですらないよ。森の中で彷徨ううちに、彼らは一人ずつ首を斬られて殺されていく。変形の孤島ミステリーと言える内容なのだが、何をどう書いてもネタばらしになるので紹介はここまで。いったいどう決着をつけるのかと思って読んだら、まさかの論理的な落ちが待っていてびっくりした。ホラーだけどミステリー、なるほど。これだから澤村伊智は油断できない作者なのである。

 大ベテランの短篇集から新鋭の犯罪小説、ホラー・ミステリーに有名作品の二次創作と、またもバラエティに富んだ一月でした。2024年初夏もミステリー界は好調です。来月もどうぞお楽しみに。

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