『エイリアン』の美学を支えた、ロン・コッブ ハイテクと臓物が交錯する驚異的なデザイン力

『エイリアン』宇宙船のデザインの凄さ

 『エイリアン』シリーズ最新作『エイリアン:ロムルス(原題 Alien:Romulus)』の、ティザー予告が公開された。これがもう、「ああ、エイリアンだなあ……」という内容である。早く公開してほしい。

Alien: Romulus | Teaser Trailer

 『ロムルス』は、初代『エイリアン』と『エイリアン2』の間の時期を舞台にした作品だという。『プロメテウス』以降なんだかよくわからない方向に行ってしまった『エイリアン』シリーズ(ニール・ブロムカンプが作るの作らないのという話もあった)が、とうとう「宇宙船という密室を舞台にしたSFホラー」という方向に戻ってきたのではないだろうか。『ドント・ブリーズ』のフェデ・アルバレス監督が作るというのも納得の人選だし、素直に楽しみである。

 メインの悪役であるエイリアン=ゼノモーフが、シリーズにとって非常に大事な存在であるのは間違いない。が、それと同じくらい大事だったのが、「エイリアンによる虐殺が、近未来的な宇宙船の機能的でクールな船内で起こる」という点だ。初代『エイリアン』のノストロモ号の船内デザインは、1970年代後半にデザインされたものとは思えないくらいクールである。ピクトグラムひとつに至るまで入念にデザインされ、扉や壁の見た目には実際の貨物船のような機能性とSFメカとしての説得力があった。2年前の大ヒット作である『スター・ウォーズ』とは全く違う方向性を打ち出し、よりハイディテールで実在感があり、機能を感じさせるデザインへと舵を切ったのが『エイリアン』だったのである。

 そんなクールな船内を舞台に、エイリアンによる惨劇が起こる。実在の船舶の内部のようなディテールに血が飛び散り、グレーチングで作られた床の上を登場人物が走り回る。クールで機能的でメカニカルな船内が血で汚れたり溶けたりするビジュアルは、後の作品に大きな影響を与えた。この影響はどちらかというと映画より洋ゲーのほうで頻繁に見られるところがあり、例えば2016年版の『DOOM』でデーモンたちに蹂躙されたUACの火星施設の風景は、『エイリアン』の「機能的でクールな建造物が血と臓物まみれになる」美学を強く受け継いでいると思う。

 ティザー予告を見る限り、この「イケてる宇宙船内×血と臓物」のセンスは『エイリアン:ロムルス』も搭載している様子。ハイパースリープ用のベッドは血まみれになり、狭い通路の中を船員が駆け回り、なによりまた宇宙船の床や壁がグレーチングになっているのが嬉しい。極め付けは予告の最後の方に映るパルスライフルだ。また『エイリアン』シリーズでパルスライフルを見ることができるとは。期待しまくりである。これでつまんなかったらどうしよう……!

 この『エイリアン』シリーズ独特のセンスの礎となったのが、コンセプト・アーティスト/デザイナーのロン・コッブによる数々のアートワークである。エイリアン自体をデザインしたH・R・ギーガーの方が日本国内ではよく知られているが、ギーガーと並んで『エイリアン』シリーズの屋台骨を構築したのは、間違いなくコッブだ。『エイリアン』以外にも錚々たるタイトルのデザインワークを行っており、一番わかりやすいところだと『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンをデザインした人でもある。

 そんなコッブの仕事の凄みを理解できるのが、『The Art of Ron Cobb コンセプト・アーティスト ロン・コッブの仕事』だ。この本は『エイリアン』シリーズのみならず、60年におよぶコッブのキャリアの中で手がけた代表的なデザインワークを収録したものである。

 ざっと眺めてビビるのは、本当にコッブはなんでもデザインできるという点だ。『エイリアン』のようなSFはもちろん、『コナン・ザ・グレート』ではファンタジックなデザインも手がけているし、『レイダース』ではドイツ軍の飛行機のデザインをやっている。映画だけでなくゲームのデザインもするし、カートゥーンのような漫画も描いていたりする。遠い未来からファンタジー世界まで、ハードなものからコメディタッチなものまで、ありとあらゆる年代のありとあらゆるビークルやガジェットのデザインができるのが、ロン・コッブだ。

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