さわやかのハンバーグ、なぜサイズ表記が「げんこつ」「おにぎり」? 創業者・富田重之氏が込めた想い

さわやかのハンバーグ、なぜ「げんこつ」?

 静岡県のみで展開する人気レストランチェーン「炭焼きレストランさわやか」を運営する「さわやか」の創業者で、会長を務めていた富田重之氏が、12日に老衰のため87歳で亡くなった。これを受け、14日には故人を偲んでさわやか全店が臨時休業となった。

 いまや静岡を代表するレストランチェーンとなったさわやか。ファミレスのハンバーグでよくある、ふわふわとした柔らかめの食感とは正反対の、みっしりした肉らしい重量感のあるハンバーグで知られている。食べるまでに「テーブルの上で店員がハンバーグをふたつに切って鉄板で加熱してくれる」というプロセスを踏む点や、静岡でしか食べられないというレアさも手伝って、近年では県外からもファンが訪れる人気店となっていた。

 さわやかの特徴が、ハンバーグやステーキなどグリル系のメニューに全振りしたメニューの独特さである。通常のファミリーレストランと比較してメニューの幅が絞られており、ファミレスにありがちなピザやパスタ、サンドイッチのようなメニューは無し。看板商品のげんこつハンバーグ、おにぎりハンバーグを筆頭にグリル系のメニューが並ぶ。それ以外のメニューは最後の方にミートドリアや焼き野菜カレー、梅しらす雑炊などが並ぶ程度である(メニューブックではサイドメニュー・軽食っぽい枠に収まっているが、さわやかのハンバーガーは非常に高いポテンシャルを持っていることも書き添えておきたい)。

 また、店名の「さわやか」や、「げんこつ」「おにぎり」といったメニュー名も独特なセンスである。ハンバーグのサイズを示すのに「ラージ」「スモール」とかではなく、微妙に分かりづらい「げんこつ」「おにぎり」表記が現在まで使われ続けており、自分も最初に行った時は混乱した。さらに言えば店内のインテリアなどもちょっと独特なセンスで統一されており、その辺りも含めて「静岡限定の、他所にはないレストランチェーン」という特徴につながっていたと思う。

 これらの独特な要素が、富田会長の考えや想いによるものだという点をわかりやすく示したコミックが、さわやかの公式Webサイトで読める『さわやか物語』である。富田会長の一代記的な形でさわやかの歴史を描いた内容で、作画を担当しているのは現在ライトノベル原作のコミックなどを手掛ける静岡在住の漫画家、久遠まことだ。

 『さわやか物語』は「創業編」「天使からの手紙編」「工場設立編」に分かれており、「創業編」は1976年のさわやか創業当初からストーリーがスタート。当時40歳だった富田氏が、なぜさわやかを開店したのかが描かれる。結核という重病にかかっていたからこそ見えた、「自分たちは"自然"に生かされている」という気づき。そして自然や親への感謝を形にして提供する仕事として、飲食業を選んだという理由が、コミックの形でわかりやすく解説されている。

 ちょっとすごいのは、「爽」という漢字を勝手に改変して会社のロゴマークを作ってしまうくだりである。普通だったら「じゃあ『さわやか』とは違う名前にしようか」とか「ひらがな表記でいいか」みたいな感じで妥協してしまいそうだが、富田氏は「漢字の中の『×』のところを『人』にしちゃおう!」というひらめきから、自社のロゴを作り出す。「さわやか」という名前に関して、ほとんど宗教的といってもいいくらい想いが強い。こんな人だったのかと、驚く内容が漫画には出てくる。

 さわやかと富田氏にはピンチが数多くふりかかる。開店から15年が経過して会社の規模が大きくなった際の、品質やサービスの低下。O-157や狂牛病といった食品の信用問題。これらのピンチを「安全・健康・元気の出るおいしさ」へのこだわりと「感謝の心」で乗り越えていく。

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