被害総額は1年で約455億円……国際ロマンス詐欺の手口とは 背景にあるのは「次はないかもしれない」の心理

国際ロマンス詐欺、ハメる手口

 SNSやマッチングアプリを利用して連絡をとり、恋愛感情を抱かせつつ金銭を騙し取るロマンス詐欺。その被害について、警察庁が初の調査を行った。

 調査の結果、SNSを使って投資話を持ちかけるSNS型投資詐欺と前述のロマンス詐欺の昨年1年間の認知件数は合計3846件にのぼり、被害総額は約455億円に達したという。金額だけならば特殊詐欺(いわゆるオレオレ詐欺や振り込め詐欺のような、血縁者などを装って現金を騙し取る詐欺)の昨年の被害額である約441億円を超えており、問題の根深さが明らかになった。

  全体のうちロマンス詐欺の件数は1575件、被害額は約177億円。犯人が名乗った国籍は中国や韓国などの東アジアが35%と最多で、海外在住の日本人が18%、東南アジアが12%と続く。これらの詐欺では、恋愛感情を掻き立ててから「2人の将来のために資産を蓄えよう」と投資を持ちかける手口がメインだという。日本以外の国の人間を騙って詐欺を働くことから、「国際ロマンス詐欺」という呼び名も一般化している。

水谷竹英『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)

 ある日突然SNSのアカウントに知らない美男美女の外国人からメッセージが送られ、会話しているうちに直接会ったこともないのに恋に落ちてしまい、気がついたら相当な額の金銭を騙し取られている……。思わず「そんな迂闊な人がいるのか」と思ってしまいそうな詐欺の手口だが、どっこいそう単純な話でもない……ということがわかるのが、水谷竹英の『ルポ 国際ロマンス詐欺』である。昨年6月に発売されたこの新書には、いかに巧妙に詐欺犯が被害者の心の隙を突いてくるのか、そしてその意外な犯人像までが記されている。

 本書は、詐欺の被害にあった人へのインタビューに始まり、著者自らが自分のSNSアカウントに実際に送られてきたロマンス詐欺目的のアカウントと会話し、そこから得た情報を手掛かりにサイバー犯罪の温床と化しているナイジェリアに実際に飛び、詐欺犯への直撃取材に挑むというスリリングな内容。ナイジェリアで判明した少々意外な犯人像にも驚かされるが、我が事のように恐ろしかったのが前半の被害者たちへのインタビューだ。

 この本を読む限り、被害者たちは別にものすごく脇の甘い人たちというわけでもない。暮らしぶりだけ見れば、どこにでもいそうな至って普通の人たちである。しかし、何人かの被害者に共通している特徴として、なにかしら孤独に悩んでいるという点がある。

 子育てをめぐって夫と意見が対立したことから家庭内で孤独を感じていた既婚女性や、40代半ばまで独身でアプリでもうまくマッチングできず引け目を感じていた女性、30代半ばまで司法試験に挑戦し続けたため未婚のまま60代になってしまい「なんとか結婚したい」と焦りを感じていた男性。そういった、それなりに世間によくある悩みを抱えた人々に、国際ロマンス詐欺の犯人たちは巧妙に取り入り、恋愛感情をフックにして金銭をむしりとる(「実はさほど巧妙な技術があったわけではなく、ある種の標準化がされたテクニックだった」ということがわかる本書の後半部分も残酷だ)。

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