『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』はノベライズも必読! 言葉で紡ぎ出す音楽の魅力

『のび太の地球交響楽』ノベライズの深み

 3月1日に公開された「映画ドラえもん」シリーズの43作目となる『映画ドラえもん のび太の地球交響楽(ちきゅうシンフォニー)』は、音楽がテーマになった作品で、映画の中で様々な楽器が鳴り響いて音楽の素晴らしさを教えてくれる。映画館で観て音楽を耳で聴いてこそ良さを感じられる作品と言えるが、映画で脚本を手がけた内海照子が書いた『小説 映画ドラえもん のび太の地球交響楽』(小学館)では、言葉によって音楽の魅力を表現してしっかりと感動させてくれる。

『 透き通った空気に極彩色の音色が響いた。少年の眼前を一羽の鳥が横切っていく。「白鳥……!」音色は白鳥の鳴き声だったのだ』

『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』では、大昔の地球に暮らしていた少年が、狩りに出かけて空を舞う白鳥の姿を見るシーンが冒頭に登場する。映画館にいる人は、美しい自然の風景に接して、自分もそこにいるような気持ちになれるだろう。ただ、白鳥の鳴き声にまで意識を配ることなく、流れる映像に沿って興味を次の展開に向けてしまうのではないだろうか。

 小説版はここで、『極彩色の音色』という言葉を使うことで、白鳥の鳴き声が持つ魅力をよりくっきりと感じ取れるようにしている。二羽の白鳥が鳴き声を交わすシーンについても、『言葉にできないほど美しいその歌声は、命の喜びを確かめているようで、少年はしばしその音色に耳を傾けるのだった』と描写して、美しい音が聴く人の気持ちにどのような働きかけをするのかをイメージさせる。

 映画のノベライズは、ストーリーは伝えられても役者の演技の良さや、奏でられる音楽の良さまで伝えられないと思われがちだ。実際、『小説 映画ドラえもん のび太の地球交響楽』も、映画館で覚える感動とまったく同じものをくれる訳ではない。

 リコーダーがどうしてもうまく吹けないのび太が、奇妙な言葉を喋る少女に関心を持たれ、しずかちゃんやスネ夫、ジャイアン、そしてドラえもんとともに音楽によって宇宙を救う存在だと思われて、宇宙空間に浮かぶ「ファーレの殿堂」に招かれる。そして、より素晴らしい音楽を奏でるために頑張り始める。

 そんなストーリーの上で、しずかは打楽器、スネ夫はバイオリン、ジャイアンはチューバを一生懸命練習して、だんだんと上達していく様子が描かれて、自分でも楽器を演奏してみたいと観客に思わせる。のび太だけは上達が遅く本人もやる気を失いかけるが、それでも頑張ろうとする姿を応援したくなる。そうした展開の先で、皆が音楽を奏でて宇宙を救おうとする場面を通して、音楽が強い力を持っていることを美しい音楽によって強く感じさせられる。

 観ていれば分かるし、聴いていれば感じ取れる映画の魅力。それを、音楽を聴かせることができない『小説 映画ドラえもん のび太の地球交響楽』では、巧みな言葉選びとその連なりによって表現し、情動を誘って感じさせようとしている。

『しずかが、スネ夫が、ジャイアンが、こちらを見て笑っている。のび太の出す音が、みんなの音と混ざり合って溶けていくような感覚。心臓の鼓動が速くなる。体が一つの楽器になって、共鳴しているみたいだ。最高に気持ちがよくて、スリリングで、楽しい!』

 大勢が心を一つに合わせて音楽を奏でる楽しさを、強く感じさせてくれる文章だ。こうした描写を各所に置くことで、『小説 映画ドラえもん のび太の地球交響楽』はたとえ耳から音楽は聴けなくても、心の中にあるリズムやメロディをだんだんと高めていって、クライマックスの大きな感動へと導いてくれる。

 映画を見てから小説を読めば、何となく覚えた感動がどういうロジックで発生したかを理解できるだろう。小説を読んでから映画を見れば、展開から感じた音楽の力とは、こういうことだったのかと分かるはずだ。

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