『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』はノベライズも必読! 言葉で紡ぎ出す音楽の魅力
見渡せば、小説や漫画で音楽の魅力を表現しようとした作品が、他に幾つもある。新しいところでは、2月29日に『BLUE GIANT EXPLORER9』(小学館)と『BLUE GIANT MOMENTUM1』(小学館)が同時刊行された石塚真一の漫画「BLUE GIANT」シリーズは、サックスプレイヤーの宮本大がジャズに挑んで東京からドイツ、そしてアメリカへと映りながら成長し、成功している様子を描いている。懸命にテナーサックスを吹く大の迫力たっぷりの絵と、情熱的にジャズに取り組むストーリーによって、何かとてつもない音楽が鳴り響いていくことを、読者に感じ取らせている。
4月7日からNHKのEテレで放送が始まるTVアニメ『響け!ユーフォニアム3』は、原作は武田綾乃の小説『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章』(前後編、宝島社)で、そこでは吹奏楽の演奏が多彩な言葉によって表現されている。
『吹かれる吹雪、乱暴に世界を荒らすトロンボーンのグリッサンド。バスドラムの鼓動が、ホールの中の空気を揺さぶった。これまでに登場したテーマが形を変え、真っ白な雪原に鮮やかな色をつけていく。流れ落ちる音の雨粒が、白銀の世界に希望を見出した』
ワインの風味を様々な物に例えながら言葉で説明するソムリエのように、奏でられる音楽がどのようなものかを言葉によって感じ取らせる描写が並んで、目の前で演奏が行われているような気持ちにさせる。もしかしたら、アニメ以上に音楽が持つ本質に迫っているかもしれない。『小説 映画ドラえもん のび太の地球交響楽』もこうした、最初から音に頼らず言葉で音楽を描こうとした作品たちに似た感覚をもたらしてくれる1冊だ。
付け加えるなら、映画の中の展開を言葉で描写することで、意味を通りやすくしているところもある。映画の途中で、のび太やドラえもんの一行が合奏によって落ち込んでいる登場人物を元気づけようとする場面が登場する。最初は明るい音楽を奏でるが、相手の気分はなかなか晴れない。そこで、のび太が間違えて半音を下げて演奏したら、悲しげな音楽になって相手の憂鬱な気持ちに寄り添ったものになった。メジャーからマイナーへの転調が場面に合う音楽を作り出すことが、ここから理解できる。
のび太たちを「ファーレの殿堂」に誘うミッカという少女が、普通なら悲しくなるようなことを知っても平気な表情を見せていた場面で、雨粒が落ちてきたことに触れてミッカの本心に迫る描写もあって、やはりそうだったのかといった気持ちになれる。音を音として描けなくても、状況の説明であったり、表情の奥底にある心情であったりといったものなら言葉で描ける小説ならではの利点と言える。
映画として作られた作品である以上、『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』はやはり映画館で観るべき作品だ。一部の劇場で使われているドルビーアトモスの音響技術なら、鳴り響く楽器のひとつひとつが粒立って聞こえて、アンサンブルや合奏に奥行きと広がりを感じ取れる。その上で『小説 映画ドラえもん のび太の地球交響楽』も合わせ読めば、より濃く深く作品の真価を受け取れるはずだ。