【第44回日本SF大賞】人はなぜ人なのかーー長谷敏司『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』が問う人間性の根源
第44回日本SF大賞の候補には、宇宙開発が進んだ世界とコンピュータ技術が発達した世界という、ずれた2つの世界が重なり合った状況で出会う少年少女を描いた高野史緒『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』(ハヤカワ文庫JA)、妹が殺してしまった父親の死体を、怪獣が暴れている東京湾に捨てに行こうとする表題作を含んだ久永実木彦『わたしたちの怪獣』(創元日本SF叢書)、死体を吸収する巨大人型物体が登場する表題作を含んだ斜線堂有紀『回樹』(早川書房)、死者の記憶にアクセス可能な技術が実現した近未来で事件捜査に臨む刑事が主人公の結城充考『アブソルート・コールド』(ハヤカワ書房)が挙がっていた。
パラレルワールドや不条理なシチュエーションへの適応、サイバーパンクといったSF的な思索とストーリーを楽しめる作品ばかり。どれが受賞しても不思議はなかったが、AIの台頭という時代にあって、それを鏡のようにして人間性というものを問い直してみた『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』に評価が集まり、日本SF大賞となったようだ。
ただ、一昨年の第42回でよしながふみ『大奥』が受賞したのを始め、漫画作品や映像作品が候補になったり、受賞したりすることもある。SFに強い版元の小説作品ではないところで、これこそが日本SF大賞に相応しいという作品が登場してくれば、ノミネート作品を挙げる日本SF作家クラブの面々にもきっと届くことだろう。
今回の第44回日本SF大賞では、長くSFの発展に貢献して来た4人の故人に功績賞が贈られた。評論家で作家としても活躍した石川喬司、SF作家で『鉄腕アトム』『宇宙戦艦ヤマト』といったアニメ作品にも携わった豊田有恒、『超人ロック』を半世紀以上にわたり描き続けた聖悠紀、そして『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』といったSF漫画の金字塔的作品を生み出し続けた松本零士(五十音順)。残した作品や評論が今の世界に与えた影響の大きさを改めて感じ取りたい。