人気高まる“手描きの原画”、どう管理する? 文化財保護の観点からも見直しの機運高まる

  2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」は、北陸地方を中心に甚大な被害をもたらし、日本社会に大きな衝撃を与えた。なかでも、朝市で有名な石川県輪島市の市街地にあった「永井豪記念館」の焼失は、漫画ファンにとってショッキングな出来事であった。当初は、貴重な一点物の原画なども焼失したと思われていたが、1月25日に市の担当者が立ち入り調査を行ったところ、奇跡的に被害を免れていたことが報告された。

  永井豪が所属するダイナミックプロの公式Xによると、建設時に既存の建物の改築に加えて原画などの展示棟を増築したが、その際に施された耐火対策が功を奏したと思われるという。貴重な原画のほか、歴史的な価値の高い展示物の焼失が回避された意義は大きく、まさに不幸中の幸いであった。しかし、今回の災害は、全国にある漫画関係の資料館の防災体制、そして今後の在り方を考える契機になったことは間違いない。

  神奈川県川崎市にある「川崎市市民ミュージアム」は、1988年の開館当初から収集した日本有数の漫画資料のコレクションがあった。全国に先駆けて漫画に注目してきたパイオニア的な博物館であったが、2019年に発生した令和元年東日本台風(台風19号)で多摩川が氾濫。地下の収蔵庫が浸水被害に遭い、保管されていた収蔵品約26万点のうち、約23万点が被害に遭ってしまった。特に漫画雑誌などの大部分は修復困難になり、廃棄されてしまった。

  日本は災害列島であり、特に地震はどこで起きても不思議ではないと考えられている。しかし、地方の博物館・美術館では人手や予算不足のため、そもそも収蔵品の整理もままならない例も多く、防災体制にまで手が回らない施設もあるといわれる。特にバブルの前後には競うように美術館が建設されたが、建設から30~40年経ち、建物の老朽化が進んでいる。記者が訪問したある美術館は壁面のコンクリートの劣化が進み、収蔵庫で雨漏りが起きていた。改修のための費用を捻出できない施設も少なくないようである。

  文化庁が主導し、巨匠・ちばてつやの原画を借り受け、漫画原画の散逸や劣化を防ぐための管理・活用の調査を始めたという報道があった。原画の保存に関しては、秋田県横手市の「横手市増田まんが美術館」が取り組んでいるが、国レベルでも適切な保管方法やデジタル化の手法を調査していく動きがおこっている。漫画は日本の文化として世界に知られているが、デジタルや生成AIが普及した今、手描きのアナログ原稿の注目度が劇的に高まり、国内外のオークションで高額落札される例が相次いでいる。

  そうした背景を受け、今後、地方都市で漫画の原画や資料を収蔵する施設は増えてくると思われる。これは歓迎すべき傾向だが、限られた予算の中でいかに資料を守っていくか、大きな課題に直面しているといえる。特に漫画の原画は、いわゆる一般的な洋画や日本画と比べても、けた違いに点数が多く、従来の文化財保護とは異なる対応が求められそうだ。防災体制の構築の在り方はもちろんだし、原画の適正な管理方法などのノウハウの共有が求められるといえよう。

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