ライブハウス「ロフト」と東京カルチャーの変遷 平野悠 × 牧村憲一 × 宗像明将トークイベントレポ

平野悠 × 牧村憲一 × 宗像明将 イベント
牧村憲一

 後半は平野、宗像に加え、牧村憲一も登壇。牧村はシュガー・ベイブ、山下達郎、大貫妙子、竹内まりや、加藤和彦などの制作・宣伝を手掛け、84年に細野晴臣主宰のノン・スタンダード・レーベルに参加。さらに80年代後半からはフリッパーズ・ギターをプロデュースするなど、長きに渡り良質のポップミュージックを送り出してきた音楽プロデューサーだ。


 「平野悠さんが前半は飛ばしてくれたので後半は笑いはなし、マジメにいきましょう(笑)」(牧村)という言葉から、まずはロフトが始まる前後の音楽状況を説明。「全日本フォークジャンボリー」の影響、フォーク・ロック系のレーベル「ベルウッド・レコード」の設立(この日、ベルウッド・レコードの中心的存在だった三浦光紀氏も会場に姿を見せていた)、荻窪ロフトのブッキングに関わっていた音楽事務所テイクワン(長門芳郎、前田祥丈)とのつながりーー。

 牧村と平野のつながりが強まったきっかけの一つは、1975年、牧村が関わっていたセンチメンタル・シティ・ロマンスが音楽雑誌『ニューミュージック・マガジン』で中村とうように酷評されたこと。平野はセンチメンタル〜の擁護派として音楽雑誌に意見広告を掲載したのだ。

「中村とうようは当時、神格化されていたからね。そこにつっかかれば評判になるだろうなと。狙いはそれだけ」(平野)

「悠さんはそう言うけど、すごい行動ですよね。ライブハウスだけではなく、この人とは一緒に行動するべきだなと思いました」(牧村)

 また、「ロフト・セッションVol.1」(1978年)の話題も。ロフトが立ち上げた「ロフト・レーベル」の第3弾としてリリースされたこの作品は、上村かおる、大高静子(後のおおたか静流)、吉田佳子、デビュー前の竹内まりやといった女性シンガーをフィーチャー。ロフトに縁のあるミュージシャンがバックバンドをつとめたセッション・アルバムだ。

「大和田俊之さん(米文学、ポピュラー音楽研究)が『シティポップというものがあるとしたら、それはまちがいなく「ロフト・セッションVol.1」からはじまったと思います』と言ってくれたことがあります。当時は評価されなかったし、そういう結果をもたらすとは思っていなかったですが、こちらの意識は高かったと思いますね。腕達者のミュージシャンたちと新進気鋭のシンガーを掛け合わせてみよう、と」(牧村)

「竹内まりや、レコード会社でバイトしてたんだよね。最初は『誰だよ、この子』と思ったけど(笑)、その後、まさかあんなにヒットするとはね」(平野)

 さらにトークは東京のカルチャーの移り変わりへ。その変遷は、平野と牧村にも大きな影響を与えたようだ。

牧村「新宿文化はまず60年代に花開いたんです」
平野「ジャズだよね」
牧村「そう。音楽だけではなく演劇やATG(映画会社『日本アート・シアター・ギルト』)など、サブカルチャーが盛んだった。その後は渋谷に移動していくんだけど、渋谷は何をやるにも(金額が)高かったから、その間にある原宿が盛り上がった時期もありました」
平野「60〜70年代は吉祥寺、国分寺、高円寺の“3寺文化”、つまり中央線カルチャーもあった。それが新宿、渋谷などのターミナル駅に移ったんだよ」

牧村「もう一つの流れはパンク。日本ではパンク、ニューウェイブ、テクノがごちゃごちゃになっていたんだけど、僕自身は時代に沿うことよりも、海外の影響をさらに深堀りする人たちに興味があった。細野晴臣や大滝詠一がそう。悠さんはパンクに行ったから、その時期は生き方が違っていました」

平野「俺、よく牧さんに言うんだよ。『パンクの面白さ、知らねえだろ』って(笑)。長い間、渋谷の天下だったけど、今は新宿の盛り上がりがすごいね」
牧村「あとはイースト東京。東京の東側で面白いことが起きると思います」
平野「下北沢もいいよ。今30軒くらいライブハウスがあるんだけど、あそこに1000キャパの会場が出来たら天下取れるんじゃないか」

 イベントの終盤には、宗像の書著『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』を紹介する場面も。本の企画が立ち上がったのは2019年。直後にコロナ禍となり企画はストップするも、ムーンライダーズの岡田徹が逝去したことにショックを受けた宗像が「どうしても書きたい」と企画を再起動させた。徹底した資料分析と鈴木慶一へ合計25時間に及ぶ取材をもとにした本作は、『1976年の新宿ロフト』と同様、この国のポピュラーミュージックの変遷と奥深さを実感できる書籍だ。

 最後に「この先のライブハウスはどうなると思いますか?」と聞かれた平野は「知らねえよ。俺はもういなくなるし(笑)」と一蹴、会場はまたしても笑いに包まれた。70年代以降の日本の音楽シーンを知り尽くしたレジェンドと気鋭の音楽評論家が交差した刺激的な一夜。このトークをさらに深く掘りたい方はぜひ、『1976年の新宿ロフト』『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』を手に取ってもらいたい。

■イベント情報
『創業者自ら語るライブハウス「ロフト」の半世紀〜平野悠「1976年の新宿ロフト」(星海社新書)刊行記念トークライブ〜』、アーカイブ配信中
【配信チケット】¥1,000
※キャスマーケットにて販売中。
https://twitcasting.tv/loftplusone/shopcart/285751
アーカイブ視聴:2月21日(水)23:59まで
アーカイブ購入:2月21日(水)21:00まで

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