川上未映子、小川哲、凪良ゆう……芥川賞・直木賞受賞作家もズラリ 2024年本屋大賞ノミネート全10作を解説
『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)は、第20回女による女のためのR-18文学賞で大賞、読者賞、友近賞の3冠に輝いた宮島未奈のデビュー作。閉店を控える西武大津店に通って中継に映ると言いだしたのを始まりに、無謀なことを次々に言っては突き進んでいく中学2年生の少女を描いて、読む人に元気を与えてくれた。即増刷となって10万部を突破するベストセラーとなり、続編『成瀬は信じた道をいく』も登場。映像化があれば誰が成瀬を演じるべきかを議論したくなる。実現すれば映画『翔んで埼玉~琵琶湖より愛を込めて~』にも増して、滋賀県を全国へと押し出すはずだ。
杉江松恋の新鋭作家ハンティング 最強の主人公を描いた小説『成瀬は天下を取りにいく』の衝撃
しばらく読んだところで、胸の中に複数のイメージが広がり始めた。 そういえばあのときこんなことがあったっけ、というような自…
『放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件』(ライツ社)は、『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズで知られるいとうのいぢのイラストがついた「天久鷹央の推理カルテ」シリーズで広い世代から支持される知念実希人が、初めて挑んだジュブナイル。先生を依頼人とした学校で起こる不思議な事件に挑む子供たちの活躍を楽しめる。2018年に 『崩れる脳を抱きしめて』、2019年に『ひとつむぎの手』、2020年に『ムゲンのi』、2022年に『硝子の塔の殺人』で都合4度、本屋大賞にノミネートされた”常連”だが、ジュブナイルで受賞となれば、作家としてもカテゴリーとしても初となる。注目だ。
『星を編む』は、2023年本屋大賞を受賞した凪良ゆう『汝、星のごとく』(講談社)の続編だ。瀬戸内の島に育った高校生の暁海と、母親の自由奔放な恋愛に振り回されて島に引っ越してきた櫂が出会い、惹かれ合ってすれ違いながら成長していく青春ストーリーだった受賞作。対して『星を編む』は、暁海と櫂の教師の北原や、漫画原作者・作家となった櫂の担当編集者の物語が綴られる。2度の受賞なら凪良の他に恩田陸もいるが、3度目は過去になく連続受賞もないだけに、こちらにも注目が集まる。
『リカバリー・カバヒコ』(光文社)の青山美智子も、2021年に『お探し物は図書室まで』、2022年に『赤と青とエスキース』、2023年に『月の立つ林で』がノミネートされた常連作家。自分の治したい部分を触れると願いがかなうという都市伝説を持ったカバの遊具に語りかける人々を通して、思い悩む人々が回復しようとする様を描く。交流が希薄になった現代に生きる人たちに、救いをもたらしてくれる優しい物語だ。
『レーエンデ国物語』(講談社)は、多崎礼による重厚なファンタジーのシリーズで現在第3巻まで刊行中。母を失った領主の娘が、結婚を迫りお淑やかでいろと求める親族から逃げ出して冒険の旅に出た先、呪われたレーエンドという地で琥珀の瞳を持つ射手のトリスタンと出会う。すっかり居ついたレーエンデにやがて騒乱が迫り、ユリアは戦いの中へと足を踏み入れていく。『煌夜祭』『”本の姫”は謳う』『血と霧』といった、世界観まで含めて創造したファンタジー作品を書き継いできた作者の目下の代表作。シリーズが完結した暁には、日本のファンタジー史に残る傑作となっているだろう。
2024年本屋大賞は、これらのノミネート作品に対して選考員となっている書店員が投票し、得票数で大賞が決まる。発表は4月10日の予定。