生成AIの反動? 手描きの色紙や原画が活況 アナログで描いた“一点もの”が高騰中
■手描きの色紙がコミケでも人気
2023年12月30日〜31日にかけて開催された「コミックマーケット103」は、長引いたコロナ騒動の自粛ムードが明けつつある影響もあってか、かなりの盛況だったようである。定番の同人誌や同人グッズの頒布とともに気になったのは、手描きの色紙を売る人が明らかに増加していたことだ。詳細なデータこそないものの、コロナ騒動が始まる前と比較すれば、間違いなく増えていると思われる。
最近ではビーグリーが運営するFUNDIY STOREのように、セミオーダーで色紙を描き下ろしてもらえるサービスまで登場しているうえ、会場で作家に直接オーダーできるコミッション系のイベントも盛んだ。
手描きの色紙に注目が集まる要因は様々だろう。作者が描いた一点ものが欲しいという需要は以前からあるが、それに加えて、CGなどのデジタルの技術が向上したことや、さらには生成AIの登場などにより、手描き、すなわちアナログの技法に注目が集まっている点も大きいといえる。1970年代、大量生産が可能なクォーツ腕時計が普及したが、1980年代になると伝統的な職人技で作られる機械式腕時計の人気が高まった。それと同じことが、イラストの世界でも起こっているのだ。
■生成AIによって、アナログが見直されるきっかけを作った
2010年以降はペイントソフトなどの技術の進化で、技術的に優れ、綺麗なCGイラストを制作するハードルはかなり下がった。アマチュアであっても本職と見紛うレベルの作品を描けるようになった。そして、2023年には生成AIによる、見た目にも美しいイラストが爆発的に普及した。はじめはぎこちなく、一発でAIと見破られるクオリティも多かったが、このところもはや人が描いたものと判別がつかないレベルになっている。
生成AIの登場によって、イラストを一度も描いたことがない人でも見栄えのするイラストの発表が可能になり、ネット上には“綺麗”で“映える”イラストが溢れた。これにより、素人目にはデジタルのイラストと生成AIが出力したイラストは、判別がつかなくなりつつある。単に美しいだけのCGは、よほど個性的で作家性が強く、インパクトがあるものを除けば見向きもされなくなってきている。
その反動でアナログが注目されるようになったのは、必然といえる。実際、Instagramなどにはコピックや水彩などのアナログ画材でイラストを描く過程をUPする人が増加している。それが仮に“模写”や“トレース”のような絵であっても、手描きだというだけで喝采を浴びているのだ。若い世代が敢えてコピックやスクリーントーンに注目するケースも多いと聞くが、一種のロストテクノロジーとして注目を集めているのかもしれない。