『フルメタル・パニック!Family』を味わい尽くせ! 「フルメタ」シリーズ再読のススメ
長編シリーズの終盤では、そんなかなめと宗介が対峙する中で、人類にとって重要な選択を突きつけられる。戦争も貧困も差別もない平穏な世界を望むべきか、それとも戦いは続き苦しむ人も生まれ続ける今の世界が続くことを願うべきか。誰もが前者だと答えそうな選択にも裏があり、何よりかなめという存在が失われる可能性もあって、宗介ならずとも考えさせられた。
結果、世界は続き宗介もかなめも無事に生き延びた後の世界については、賀東が原案・監修を務めた大黒尚人のシリーズ『フルメタル・パニック!アナザー』の中に描かれ、〈ミスリル〉で宗介の同僚だったクルツやマオの状況や、アーム・スレイブと呼ばれるロボットの進化の様子などが描かれるが、宗介とかなめについての詳細は伺えなかった。それが、『フルメタル・パニック!Family』で遂に明らかとなった。宗介たちが大宮市に引っ越してきて「小笠原」という旧友の名字を使ったり、江東区のタワーマンションに移ってこちらも元同級生の「風間」名義で暮らしたりしていたのも、かなめの能力を今も狙う追っ手から隠れるため。ところが敵は、写真に写ったクローゼットのハンガーパイプからメーカーを突き止め、納品先を突き止め追ってくる。それを宗介だけでなく、火器の扱いや体術に長けた夏美と、ハッキングの能力でドローンを操る安斗も加わり、日常の中で戦闘を繰り広げる。
往年の「フルメタ」シリーズでは宗介だけだった”戦争ボケ“組に夏美や安斗も加わって、スケールアップしたギャップを存分に楽しめる新シリーズだ。
「Family!」については、長編シリーズがどんどんとシリアスになっていっても、変わらずコメディを続けた『フルメタル・パニック! 放っておけない一匹狼』から始まる短編シリーズに近い雰囲気が濃い。短編シリーズは京都アニメーションによって『フルメタル・パニック!ふもっふ』としてTVアニメ化されていて、宗介が起こすバカ騒ぎをハイクオリティの映像で描いて大人気となった。同じような展開を「Family!」でも期待したくなる。ただ、時折ほのめかされる、かなめが病気でなくなった母親と同じ状況に陥った経緯がシリアスな空気を漂わせて、コメディのままで終わらないような印象も覚えさせる。かなめに危機が迫り〈ミスリル〉の再結成が望まれるような事態となって、ハードなアクションが繰り広げられることになるのか。安斗のチャットに登場するテッサという美しい女性が絡んでくることはあるのか。先が気になるシリーズだ。
アニメについては、『ふもっふ』も含めると4期目となる『フルメタル・パニック! Invisible Victory』で『フルメタル・パニック! 9 つどうメイク・マイ・デイ』まで描かれたものの、クライマックスへと向かう『せまるニック・オブ・タイム』と『ずっと、スタンド・バイ・ミー』はアニメ化されないままでいる。宗介たちの20年後を楽しんで欲しいのなら、20年前のことを知ってもらう必要があるということで、完結編のアニメ化が実現しないものか。そんな期待も膨らんでくる今回の復活劇だ。